007
クエストをすべて終えた後、
男はしばらくアラタを無言で見つめていた。
……完全に言葉を失っている様子だった。
「……正直に言うぞ」
男がため息をつく。
「なんであんな状況で、
わざわざ洞窟の中でスクワットなんてした?」
アラタは口を開き――
そして、閉じた。
どう説明すればいいんだ?
システム?
デイリークエスト?
身長が伸びる?
……どう考えても、まともに説明できる気がしない。
「……まあ、いいや」
アラタは諦めたように肩をすくめた。
男は首を振り、それ以上は何も聞かなかった。
約束通り、報酬は支払われた。
洞窟内で回収した素材や追加報酬はすべて男のもの。
アラタは、参加報酬のみを受け取る。
……それでも。
手の中にある硬貨の重みを感じた瞬間、
アラタの顔が自然と緩んだ。
「……金、稼いだ……」
今まで他人に頼ってばかりだった。
食費も、宿代も、全部。
それが――
自分で稼いだ金。
少額とはいえ、胸が妙に熱くなった。
「……最高かよ」
帰り道、アラタは再びシステムを開く。
《デイリーミッション:未完了あり》
「……だよな」
今日のミッション内容は、昨日とは違っていた。
走る。
持ち上げる。
耐える。
アラタは時間を計り、ひとつずつ片付けていく。
――結果。
合計4時間。
「……長っ」
ちなみに、
スクワット100回だけなら10分で終わった。
「効率、悪すぎだろ……」
日が進むにつれ、
体はどんどん疲れやすくなっている気がした。
だが――
《報酬:回復水+1》
《効果:スタミナ100回復》
「……100?」
最初は意味が分からなかった。
だが、
視界の端に表示されているバーを見て、気づく。
《スタミナ:20 / 100》
「……あ、なるほど」
今日は、
スタミナの最大値が20になっていた。
「……悪くないな」
少なくとも、
昨日の自分よりは確実に前に進んでいる。
数日後。
アラタはハンター登録所を訪れていた。
簡単な手続きを終えると、
係員に奥へ案内される。
そこには――
巨大な水晶球が置かれていた。
「この球に、あなたの力を解放してください」
「……力?」
「魔力、闘気、何でも構いません」
アラタは緊張しながら、両手を伸ばす。
全部……出せばいいんだよな?
彼は、
自分の中にあるものを――
すべて解放した。
数秒後。
水晶球が、淡く光り――
そして。
《測定結果:0》
「…………え?」
係員は、少し気まずそうに咳払いをした。
「えー……
ハンターランク1です」
アラタの手に、
ランク1のハンターカードが渡される。
「……」
アラタはカードを見つめ、肩を落とした。
「……ゼロ、か」
胸の奥が、少しだけ痛んだ。
だが――
彼は、カードを強く握りしめる。
「……いいさ」
システムウィンドウを開く。
そこには、
まだ無数のミッションが並んでいた。
「俺は――」
「システムのミッションを全部やる」
「それで、必ず強くなる」
ランク1。
数字は、確かにゼロだった。
けれど――
彼はもう、何もしない自分じゃなかった。




