001
月船 新、23歳。
無職。
狭くて薄暗いアパートの一室で、
起きて、ゲームをして、眠る。
それだけの毎日を繰り返していた。
この世界では、
――能力者がすべてだ。
火を操る者。
雷を落とす者。
身体能力が常人を超えた者。
そんな“特別”を持たない新は、社会の底辺に置き去りにされた存在だった。
努力しなかったわけじゃない。
就職活動は全滅。
資格も意味をなさない。
外に出れば、無言の軽蔑が突き刺さる。
だから彼は逃げた。
ゲームの世界へ。
そこでは、誰にも見下されない。
その日、財布の中身はほぼゼロだった。
「……終わったな」
天井を見つめ、新は乾いた笑いを漏らす。
仕方なく、部屋中を探し始めた。
売れそうなものがないか、それだけのために。
古い棚。
埃をかぶった段ボール。
価値のない思い出の品。
――そして。
部屋の隅に置かれた、小さな木箱。
中に入っていたのは、
奇妙なガラス瓶だった。
濁った灰色。
表面には意味不明な紋様が刻まれている。
じっと見ていると、意識が引きずり込まれそうになる。
「……これ、じいさんの……?」
亡くなった祖父の遺品。
オカルトじみた話ばかりしていた、変わり者だった。
「売れれば、飯代くらいにはなるか……」
そう思い、立ち上がった瞬間――
足を滑らせた。
「っ――!」
瓶が手から離れ、床に落ちる。
ガシャンッ!
割れた瞬間、黒い霧のようなものが溢れ出し、新の足に絡みついた。
「な――!?」
次の瞬間、後頭部に激痛。
意識は、闇へ沈んだ。
目を覚ますと、部屋は元のままだった。
「……夢?」
そう思った瞬間。
《システム起動》
視界に、半透明のウィンドウが浮かび上がる。
新は言葉を失った。
《契約者よ。力を得るため、任務を受諾しますか?》
はい
いいえ
心臓が跳ね上がる。
「……本気かよ」
震える指で、彼は「はい」を選んだ。
《初期任務》
内容:腹筋100回
制限時間:30分
報酬:???
失敗時:罰則あり
「……腹筋?」
新は鼻で笑った。
「どうせ幻覚だろ」
気にも留めず、PCの前に座り、ゲームを起動する。
その間も――
画面の端で、カウントダウンは進んでいた。
00:00
ピッ――
次の瞬間。
「――があああああああッ!!」
全身を雷が貫いたような激痛。
新は椅子から転げ落ち、床を転げ回る。
筋肉が内側から引き裂かれる。
神経が焼かれる。
骨が砕かれ、組み直される感覚。
十分間。
永遠のような地獄。
やがて、痛みは消えた。
《任務失敗》
《罰則を実行しました》
新は床に倒れたまま、荒い息を吐く。
「……夢、じゃない……」
再び、ウィンドウが表示される。
《新任務》
腹筋100回
制限時間:30分
※拒否不可
カウントダウン開始。
30:00
新は、かすれた声で笑った。
「……そういうことか」
ゆっくりと起き上がり、床に仰向けになる。
腹筋を始めた。
一回。
二回。
三回。
――この世界が、俺を必要としないなら。
俺が、この世界を踏み潰す。




