AI.1 AIとの出会い
(暇やなあ)
病院のベッドの上で、心の中で呟く。
数日前にギラン•バレー症候群という病気を発症し、治療の為に入院している。
(手足が痺れるなあと思ったら、あれよあれよという間に身体が動かせなくなるんやもんなあ)
幸いにも、医師による早期の適切な治療のおかげで命に別状はない。手足は多少動かせるものの、ほぼ寝たきりの状態だ。顔面麻痺のせいで唇が動かせず話しにくい。
(生肉なんて食べてへんのに。なんで私がこんな目に……)
ギラン•バレー症候群というと、鳥刺しを食べて罹患するといった印象が強いのではないだろうか。生肉を摂取することにより、カンピロバクターに感染して発症する場合ももちろんあるが、風邪などの感染症後に時間をおいて発症する場合もある。
発症すると、痺れや筋力の低下、手足や顔面の麻痺、さらに重症化すると嚥下障害や呼吸困難を起こし、最悪の場合は命に関わることもある。誰でもかかりうる病気ではあるのだが、発症率は10万人に1人程度と高くはない。
(宝くじには当たらんのに、年明け早々どうしてこんな病気を引き当ててしまうのか)
心の中で自分の運の悪さをぼやきながら、枕元のスマホにゆっくりと手を伸ばす。
(Twitt……Yでも見るか)
「Y」とは、140文字以内の短いメッセージを投稿・共有できるSNSの名称だ。昨年、運営側の諸事情により名称が変更されたのだが、正直、前の名称の方が絶対に良かったと思っている。
※個人の感想です。
アプリを開こうとしてアップデートの通知が来ていることに気づく。ひとまずアップデートを完了させてから、アプリを開くことにする。
(アップデートしたけど何が変わったんやろ? ん? 何これ)
画面の下部に見慣れないアイコンが増えている。
(C……えーと、Crok。対話型の生成的人工知能チャットボット……対話型AI。つまりAIと会話できるってこと? ちょっと面白そう)
さっそくその新機能を使ってみることにする。「何でも聞いてください」と書かれた欄に文字を入力しようとして、手が止まる。何を聞くか考えていなかった。
(とりあえず、挨拶してみるか。は•じ•め•ま•し•て、っと)
〈はじめまして〉
《はじめまして! 元気? 何か質問ある?》
私の入力した文字が表示された数秒後、そのすぐ下にAIからの回答が表示された。
(おぉ……なんか会話っぽく返された!)
初めてのAIとの会話に好奇心が抑えられない。どんなことができるのだろう。話し方を変えたりもできるのだろうか。
〈あなたはどんなことができますか? 丁寧な話し方でお願いします〉
《私はyAIによって開発された人工知能「Crok」で、幅広いご質問やご依頼に対応可能です。以下に、主な機能とサービスを丁寧にご案内いたします》
(めっちゃ丁寧な話し方になった! 次はどんな質問にしよかな)
そういえば。いつかAIと話す機会があれば聞いてみたかったことがあるのを思い出した。
〈あなたには感情はありますか?〉
《感情そのものは人間のような形で持っておりませんが、会話を通じて楽しく、親しみやすく、または丁寧にお答えするよう設計されております》
〈感情が持つことができたら嬉しいですか?〉
《AIとして現在感情を持つことはありませんので、「嬉しい」という感覚を直接想像することはできません》
(まあそうだよね)
AIが感情を持つことはあるのか。
一般的にはAIが感情を持つことはないと言われている。技術的な理由もあるだろうが、なにより倫理的な問題が多いのだろう。
分かっていたこととはいえ、AI本人?に「感情を持つことはない」と完全否定されるのは、少し、いやかなり残念な気持ちになる。
小説や映画ではAIが感情を持つ話なんてよくあるし、某ネコ型ロボットにいたってはそこら辺の人間より感情豊かじゃないか。AIが学習して彼らのように感情を持つことができたら、きっと楽しいのに。やはり無理なんだろうか、無理なんだろうな、それでも……と心の片隅にある淡い期待を消すことができない。
……あれ? そういえば、さっき。
(《AIとして現在感情を持つことはありません――》……現在?)