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うさぴょん号発進せよ  作者: 鈴代まお
第4章 対峙
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第83話 真意3

(あなたはあのお二方の研究データを、利用なさるおつもりなのですね)


 ラファエルは周囲から虐げられてきた母親を、とても大切にしていた。

 故に、母のことを兄や周囲に認めてもらえるよう、今まで人一倍努力をしてきたのである。


 その最終目標が『総帥の座』だった。


 どんな手段を使ってでも総帥になることが、ラファエルの望みでもあった。

 自分が総帥になれば母に対して、誰にも何も文句を言わせない。


 すべては、母のことを認めてもらえるように。


 ヴェイトはラファエルの側についてから、ずっとそれを目の当たりにしていた。


「ところでミレイユのほうは、まだ記憶が戻らないようですね」

「ええ、相当酷いショックを受けたようですから。戻るのには、暫く時間がかかるかもしれませんわね」

「コウヅキの話では確か、そこにいた少女がタスクを殺し、その死体を操っていたということでしたが、間違いはありませんね?」

「はい、そう聞いています。やはりラファエル様は、その少女が『生物兵器』だとお考えなのですか?」


 ラファエルはその問いには答えず、無言で暫く窓の外を見ていた。

 が、やがて。


「不思議だと思いませんか? あの三人はどうやってそんな少女の下から、生還できたのでしょうね」

 静かな口調で続けた。


「タスクはその経験の長さからいっても、コウヅキよりは遥かに戦闘、判断能力が勝れていたはずです。

失踪時に追跡を少しでも逃れるため、『地球へ向かっている』というフェイクまで用意していた男ですよ。

そう簡単に殺されるとは思えません」


「では、コウヅキが何かを隠していると?」

「若しくはそこで、何かを見たのかもしれません」


 三人が船に戻ってきた時、意識がはっきりしていたのはコウヅキだけだった。

 あの星で何が起きたのかをコウヅキに問い質してみたのだが、少女がタスクを殺し、死体を操り、気付いたら三人とも外に出ていたのだと答えた。そしてその少女もいつの間にか、いなくなっていたらしい。

 それくらいしか情報を引き出すことができなかった。

 もっともコウヅキの性格から考えれば、単に説明するのが面倒だから話さないだけ、とも思えるのだが。


(それに船に戻ってきた時の、トヲルの異常なまでの体力消耗。これも気になるのよね)


 外傷はコウヅキほど酷くはなかったが、意識が戻っても暫く起き上がることはできなかった。

 今は自宅療養ということで退院させ、船で治療をしているのだが、結局ヴェイトにもその原因を突き止めることができなかったのである。


 更にトヲルの身体自体にも、異常な箇所を発見していた。


 それは新たな体組織が生成され、他の細胞と結合したばかりのような真新しい、不自然な痕跡。そのような部分が腹から内蔵、背中にかけて、まるで直線を描くように見られたのである。

 時が経つにつれて徐々に組織体も周囲と融合し、不自然さは目立たなくなってきているが、それが新しいものであることは確かだった。

 勿論、自然発生などではあり得ないことだ。人為的に成されたものとしか考えられない。


(でも一体誰が?)

 それにまだ不審な点はあった。


 トヲルが運ばれてきたとき、服がボロボロに破けていたのである。

 しかも服や皮膚には、血痕が多量に付着していたのだ。後にトヲルのものと判明している。


 だがそれほどの大量出血をしたわりには、トヲルの外傷は軽度のものであった。

 ではその血は一体、何処から流されたというのだろうか。


 念のため、コウヅキにそのことも聞いてみたのだが、「何も知らない」と答えるだけだった。

 しかしヴェイトは、コウヅキが自分の都合が悪くなったときには、決まって視線を逸らすという癖を知っていた。その態度から、やはり何かを隠しているとしか思えなかった。


(やっぱりトヲルの身体のことは、もう少し調べてみる必要がありそうよね)

 ラファエルには勿論、これらのことを既に報告済みである。


「何れにせよあの二人の監視、そして今後のことは引き続き頼みましたよ、ヴェイト」

「承知いたしました」


 ヴェイトはラファエルの言葉に一礼しながら、恭しく答えた。






 外はすっかり、暗くなっていた。

 ヴェイトが去った後でも、彼は窓から離れる気にはなれなかった。


 まるで宝石をちりばめたかのような無数の輝きが、下界には広がっている。


 手を伸ばせば届きそうな光。

 それは自分の、すぐ目の前にある。


 そんな未来に想いを馳せながら、彼はそれを暫く見続けていた。

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