第80話 期待
「な、船長。人員を補充しないんじゃ、仕方ないだろ?」
「しょれは……まあ……ちかち、タスクの代わりをトヲルに求めるのは、些か無理があるかとは思うでちけど」
船長も急な態度の変化に、困惑している様子だった。
それはそうだろう。以前のコウヅキだったらトヲルと一緒に船外作業をするのでさえ、かなり嫌がっていたほどである。
「な~に、コイツならオヤジの代わりに充分なれるさ。俺が保障するぜ」
バシバシとトヲルの肩を強く叩き、笑いながら彼は答えた。
以前にも見たことのあるその笑顔で、トヲルは嫌な予感を覚える。
コウヅキが笑顔を浮かべたままでトヲルの肩に手を置くと、そっと耳元で囁いてきた。
「お前の『中』のヤツが、スッゲー使えそうだからな。そいつにはこれからも世話になるから、よろしく頼むぜ」
「! えっ!? 僕の??」
目を丸くして固まっているトヲルから離れると、その足元付近でコウヅキと船長の二人は、再び話を始めた。
《そういえばあの者のことで、主に言い忘れておったことがあったのじゃが》
今まで口を開くことのなかったペルギウスが、突然思い出したようにトヲルに話し掛けてくる。
「どういうこと?」
トヲルは二人が話し込んでいる様子を見ながら、自分の中にいるペルギウスに小声で訊き返した。
《主が意識を失っている間に、主の身体を借りていた我は今のあの者と、少し話をすることができたのじゃ》
「話って……どんなことを話したの?」
《あの者が我の能力ことを、いろいろと訊いてきたのでな。その辺りのことが中心じゃ》
(つまり……コウヅキもペルのことを知っているってこと?)
トヲルは呆然としながらも、自分に向けられた笑顔の意味を悟るのだった。
と同時に「これから先、自分の身体が保つだろうか」と、非常に心配するのである。




