第79話 両親が残したモノ
「タスクが残した借金を今後どうしゅるか、という話なんでちけど」
船長が最初に、こう切り出した。
「タスクの身辺を調べてみたでちが、他に身寄りもなく、借金を相続する者がいないんでち。つまりそれは何れ無効になるということでちね」
「……俺が代わりに返すことはできねぇのか?
俺はオヤジが今までこの船でしてきたことを、ずっと見てきた。それを『無』にしたくはない」
コウヅキは考え込みながら、口を挟んだ。
「しょれは難しいかもちれないでちね。君達が何らかの形で養子縁組などをしていた場合なら、あるいは可能だったかもしれないでちけど」
この星の法律では借金のある者が所在不明、あるいは死亡の場合、その権利は一番近い親等に移ることになっている。
コウヅキもミレイユも、タスクとは血の繋がりがない。よってその借金を代わりに返済する義務は、皆無であった。
「しょこで……ちょっと、ややこしいことが判明ちたんでち。トヲル、君に関することなんでちけど」
「へ? 僕??」
トヲルは首を傾げた。
今の話の流れからでは、全く自分には関係のないような気もするが。
「実はタスクの借用書にも、君のご両親の記名がされていたんでち」
「は? ……ええと、それってどういう」
「つまり君のご両親は、タスクの保証人にもなっていたらしいんでち」
「! ちょ、ちょっと待ってください」
トヲルは即座にその意味を理解出来なかったが、しかし船長は話を先に続ける。
「現時点でのタスクには、借金を相続する者がいないでち。
ちかちここにきて新たな保証人が現れた。ということは―――」
「要するにオヤジが負担するはずだった借金まで、コイツが支払わなければいけないことになった、てことか」
コウヅキのほうは、直ぐに船長の話が飲み込めたようである。
ややして彼らの言っている意味をようやく理解できたトヲルは、あからさまにガクリと項垂れた。あまりにもショックが大きすぎて、声も出ないほどである。
(伯父さんの借金もまだ残っているのに……父さん、母さん、どこまでお人好しなんだよ)
「いいぜ。それを返すのは、俺も手伝ってやる」
「え!?」
トヲルは驚き、顔を上げてコウヅキを見詰めた。
「元々はオヤジの借金だ。俺もそれを返すために、今まで手伝ってきたんだしな。たぶんミレイユもこの場にいたら、きっとそう言うと思うぜ」
「わかったでち。しょれに関ちては、君達の自由でちよ」
船長は腕を後ろ手に組みながら頷いた。
「もっともわたちとちても、今君達に出て行かれるのは、少々痛いところでちたからね。社長なんか、現時点では人員を補充しゅる予定がない、なんて非道いこと言ってるでしゅち」
話している途中の船長の顔が、みるみる間に険しくなっていった。この船は余程人手が足りないのだろうか。
そんな船長に、トヲルは思い切って声を掛ける。
「あのー、僕の自由のほうは、どうなるんですか?」
「君には引き続き、この船で働いてもらうでちよ」
(やっぱり……)予想通りである。再びトヲルは肩を落とした。
「だとしたらトヲル、お前がオヤジの代わりになるしかねぇよな」
「は?」
「お前には、これから俺の右腕として働いてもらうからな」
コウヅキから放たれるその言葉に、トヲルは言葉を失った。




