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うさぴょん号発進せよ  作者: 鈴代まお
第4章 対峙
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第75話 両親の行動

「非道い!」

 トヲルは自分の中にいるペルギウスに向かって、声を荒げた。心の奥底から怒りが込み上げてくるのを、押さえることができなかった。


「非道いよ、何でそんなことするんだよ!

僕の母さんの身体を勝手に……あんまりだよ!!」


《其方は何か、誤解しておるようじゃな》

 初めて感情をぶつけられたペルギウスだったが、いつもと変わらぬ口調で言った。

《確かに我はその手助けをしたが、あれはあの者達の意思じゃ。

意識体だけの我は、あの者達と意思疎通――つまり、会話をしたのじゃ》


「えっ!? 会話??」

《正確な表現は少々異なるが、肉体という「かせ」のなくなった我には、意識体同士で互いの心を通わすことも可能なのでな》


 トヲルは今までペルギウスの能力をいくつか見せられてきたが、そのようなことまでできるとは驚きだった。

《そこで我はあの者達に思考を伝達したのじゃ。「我なら主を助けられるかもしれぬ」とな》

「『助けられるかも』……て?」


《うむ、これは一種の賭けじゃった。あの「闇の者」を見ておったら、可能性は割合低くもないじゃろうと鑑みたのじゃ》

(それって……)

 逆にいえば『助からない可能性もあった』ということなのだろうか。


《返事はすぐに返ってきた。「力を貸してほしい」と。

そこで我はあの者達に、少量の力を与えたのじゃ。我もあと数分で尽きる命じゃったから、それほどの能力は残っておらぬかったが。

しかしあの者達の「想い」は余程深かったとみえる。あのような暴挙に出ようとは、我にも予測ができぬかった》


「それじゃあ、それが父さんと母さんの意思だっていうの?」

 トヲルは愕然とした。まさか本当に、両親が自分を殺そうとしていたなんて。


《そうじゃ》

 ペルギウスがトヲルの中で、強く頷いたように感じられた。


《主はあの状況下では少なくとも「闇の者」の炎に焼かれる運命で、選択の余地が全くなかった。

それを打開するためには我が主に「寄生」し、我の能力を使用すれば或いは防げるかもしれぬ。

そして更に我と主、双方とも助命できるかもしれぬ。

その上で我が主に「寄生」するためには、主が意識喪失間でないと不可能じゃ、ということもあの者達には伝えてあった。

結果、咄嗟にあのような行為に及んだのであろうな》


「そんな、無茶苦茶な」

 確かにあのままだったなら、トヲルもタスクと同じ運命を辿っていたに違いなかった。周りを死体達に囲まれ、逃げ道がなかったのも確かである。


 しかしあの少女の攻撃を回避するためとはいえ、自分の息子の腹に穴を開けるとは、いくらなんでも無謀すぎる。一歩間違えば死んでいたかもしれない。

《じゃが現に、急所は外れておったぞ。内蔵もさほど損傷なく、出血も少なかった。

我も驚いたのじゃ。人間のほうが「地の者」よりも遥かに治癒力が高かったのでな》


 トヲルは、ふと思い出した。

 母は大学病院の看護師をしていた。ということは当然、人体構造のことも知っているはずである。


(まさか……そこまで計算していた?)

 そんな考えも一瞬頭を過ぎっていたが、いくらなんでもそれは考えすぎだろうと、トヲルは即座に否定した。


《とはいえ、我の判断が少々遅れていたならば、危うかったことも事実じゃ。それに「地の者」以外に「寄生」するのも初めてじゃったしな。主の身体が未だ回復せぬのは、そのせいも一部あるのじゃ》

「! 僕がまだ思うように動けないのって、ペルが原因だったの!?」

《そうじゃ》

 ペルギウスはまたもや、あっさりと肯定した。


《あの者を倒す時に主の肉体も、相当痛んでしまったのでな。それを回復するために些か能力を使いすぎてしまった。おかげで我が覚醒できたのは、主が目覚める一日前じゃった》


 トヲルは天井に息を吹きかけるかのように、深々と溜息を吐いた。身体全体の力が抜けるようだった。

 だが今のペルギウスの話。


 両親はトヲルを殺そうとしていたのではなく、本当は助けようとしていたこと。


 そのことを聞いただけでも、心が少しだけ軽くなったような気がした。

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