第67話 変貌
炎に包まれたタスクの腕、足、首が耳障りな音を立てながら、有らぬ方向へ捻れるように折れ曲がっていく。
胸の傷から血が噴き出し、内蔵が飛び散る。悲鳴さえも上げる間がなかった。
見ていたトヲルはまた戻しそうになり、大量の生唾を飲み込みながら口を押さえる。
それは見えない何者かの掌により、柔らかい空のプラスチック容器が、徐々に握りつぶされていくような感じにも似ていた。
人間というものは斯くも簡単に壊れるものなのか、とトヲルは呆然と目の前の光景を眺めながら思う。
抜け殻になってしまった肉塊が崩れ落ちるのと同時に、側にいたミレイユも倒れるのが見えた。
「おトモダチってね、いっぱいいたほうが楽しいでしょ」
アイは相変わらず、にこにこと笑いながら入口付近にいた。その周りを死者達が取り囲んで立っている。
「みんなもおトモダチ、いっぱい欲しいんだって」
掌に小さな黒い炎を宿らせながら、アイは続けて言った。
「でもその前にみんなが、新しいおトモダチとまた遊びたいんだって。アイも遊びたいの。だからおトモダチになる前に、遊びましょ♪」
アイの炎が突然消える。
と、タスクの身体がピクリと揺れた。
既に事切れているのは確かだった。しかしその身体が何かに操られるかのように、ゆっくりと起き上がってくる。
「ほら、また新しいおトモダチが増えた。アイ、嬉しい!」
その言葉通り、アイは本当に嬉しそうな顔をしてはしゃいでいた。
「ねえ、あなた達もアイのおトモダチになろうよ。そうすれば楽しいでしょ」
再びアイの掌に黒炎が現れた。
コウヅキは直ぐさま、倒れているミレイユの前に立ちはだかると、腰に下げていた銃を取り出して身構えた。銃口はピタリと、アイに照準を合わせている。
「っ!?」
突然横から、首の捻れたタスクが腕に噛みついてきた。
その反動でコウヅキは、思わず引き金を引く。
玉は照準から逸れ、アイの脇にいる死体を貫通した。が、元々『死体』だからなのだろう、全く倒れる気配がない。
「く…っ、オヤジ…」
獣のように変わり果てたその姿に、コウヅキは噛みつかれた右腕を押さえながら呻いた。押さえている左手の隙間から、血が滴り落ちていた。
「今のなぁに? オモチャ?」
アイが目を輝かせて身を乗り出してきた。同時に携えている黒炎が一回り大きくなり、勢いも増してくる。
そしてそれを合図に、周囲を取り囲んでいたモノ達が一斉に向かってきた。
「アイもそれ欲しい。ちょうだい!」
しかしコウヅキの手に、銃はなかった。タスクを無理矢理引き剥がしたときに、思わず手を放してしまったのだ。




