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うさぴょん号発進せよ  作者: 鈴代まお
第4章 対峙
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第65話 突破口

 トヲルは向かってくる集団の異様な光景に、足が竦んで動けなかった。突然、胸に大きな穴を開けた死体が飛びかかってくる。

 咄嗟に避けきれないと思い目を瞑った瞬間、今までトヲルの肩に乗っていたペルギウスが前に飛び出してきた。


 バチッという音と共に、全身がスパークする。

 ペルギウスの身体に触れた死体はその放電に包まれ、突然動きが止まった。


「トヲル、早く来いっ!!」

 コウヅキの声で反射的に我に返り、トヲルは自分でも驚くような早さで、そこから離れることができた。


「おい、大丈夫か!?」

 夢中で側に駆けてきたトヲルに、コウヅキは声を掛けた。

「う、うん。僕のほうは……でも…」

 振り向き、集団に電撃を放っているペルギウスを見る。


 今はペルギウスの電撃が壁のような役割でもしているのか、死体達はその向こうで藻掻いているだけで、こちらには来られないようだった。

「コイツらを動かしているのって……まさか、あの娘なのか!?」

 壁際に寄り、集団から目を離さずにコウヅキは呟いた。


「どうやらそう、らしいな。あの娘が何者なのかは、俺にもよく分からねぇ。だが一つ確かなのは、俺達をここへ誘き寄せたのが、あの娘らしいということだ」

「一体、何の目的で?」

「そいつは直接、本人にでも訊いてみることだな」


 結局あの少女のことは、何も分からないということなのだろう。

 例え少女に訊いてみたとしても、今までの会話から察するに、まともな返答が返ってくるとは思えなかった。


「くそっ、どうすりゃいい」

 コウヅキはミレイユを抱きかかえながら、ぎりっと歯噛みした。


 こちらには怪我人がおり、震えながら必死にしがみついているミレイユもいる。迂闊には動けなかった。

 このままこうしていても、何れこの集団に取り囲まれてしまうのは分かり切っている。その前になんとしてでも、ここから脱出しなければならない。


 先程タスクが言っていた制御装置は、既に集団に取り囲まれており、近づけそうになかった。

 となれば――。


「あの出入り口、か」


 コウヅキは死体達が出てきた、扉が開いたままになっている入り口に目を移した。

 その場所から地上へ繋がっているという保障はない。しかし自分達が入ってきた入口からでは、外に出ることができないのである。従って他に選択の余地はなかった。


「なんとかあそこまで辿り着くことができれば……」

 それにはまず、あの十数体ある動く死体の中を越えていかなければならなかった。


《我が、突破口を開こうぞ》

 ペルギウスが電撃を放つのをやめ、こちらに後退しながら言ってきた。

 電撃の壁はペルギウスが放つのをやめても効力が残っているのか、まだスパークが続いており、死体達の動きは封じられたままだった。


「ペル?」トヲルはペルギウスを見た。

《あの能力の残存は、直に消える》

 後ろからでも、ペルギウスが肩で荒い息をしているのが分かった。


《これが最後の機会じゃ。あと一回、我はあれを使う。その隙に、ここから脱するのじゃ》

「そんなこと出来るの? ペル」

《無論。我が前へ出たら、走るのじゃ》


「どうした? トヲル」

 端からでは独り言を言っているようにしか見えないトヲルを不審に思ったのか、コウヅキが声を掛けてきた。

「ペルがまたあの電撃を使うから、その隙に逃げろって言ってるんだ、けど……」


 コウヅキは話しているトヲルを、無言で凝視していた。途中でそれに気付いたトヲルの声は、段々と細く小さくなっていく。

(やっぱり、信じてはもらえないよね)目線を逸らしながら、諦めたように息を吐く。

 だが返ってきた答えは、意外なものだった。


「分かった」

「! えっ!?」

「俺はオヤジを……お前はミレイユを頼む」

 自分に抱きついているミレイユを、トヲルの方へ素早く渡しながら言った。


「コウヅキ、僕の言うことを信じるの!?」

「ああ。お前はこんなところで、冗談を言うような奴じゃないからな」

 普段からトヲルのことを馬鹿にしている、コウヅキの言葉とは思えなかった。


「突破するタイミングだが」真剣な表情のままで視線を逸らし、前を向く。

「ペルは自分が前へ出たら、それが合図だって言ってる」

「そうか、わかった」

 コウヅキは前を向いたまま手早くタスクを起こすと、肩で支えていつでも移動できる体勢をとった。


「ミレイユ、大丈夫?」

 ミレイユはトヲルの腕の中で目を瞑り、血の気の引いた顔で震えながら、しかしその声に無言で頷く。

 と同時にトヲルは、自分が既に冷静さを取り戻していることに驚いていた。


 両親があのような姿で、自分に迫ってきているのである。本来ならば半狂乱になったとしても不思議ではなかった。

 もしかしたら自分はまだ、これが現実だと信じたくないのかもしれない。

 あの姿のモノ達は両親ではない、と思いたいだけなのかもしれない。


 そのような考えが頭を過ぎった時、ペルギウスが静かに語りかけてきた。

《其方には、いろいろと世話になった。短期間じゃったが、最期に其方の役に立てたこと、誇りに思うぞよ》


 やがて死体達の拘束は解け、再びこちらに向かってきた。

 ペルギウスが小さなその身体で、立ちはだかるように身構える。


 トヲルにはその直前で振り向いたペルギウスの顔が一瞬だけ、微笑んだように見えた。

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