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うさぴょん号発進せよ  作者: 鈴代まお
第4章 対峙
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第63話 警告

「なんで僕のことを?」

 タスクとは全く面識がなかった。当然タスクのことなど知らない。

「アキナが以前俺に、自慢の息子だと言って、写真を見せてくれたことがあった。その頃と全く変わってないから、すぐにわかったよ」


「! お前、あのアキナの子供だったのか!?」

 今度はコウヅキが驚いて振り向いた。


「コウヅキも母さんのことを知ってるの?」

「ああ。昔ミレイユが入院していた病院の、担当看護師だったからな。ミレイユだけでなく、こんな俺にもやさしく接してくれた人だ」

 コウヅキは目を伏せながら、顔を前に向ける。


「すまねぇな、アキナの息子。二人を守りきれなかった。……すまん」

「そんな……」

 訊きたいことは山ほどあったはずだ。しかしこれ以上、言葉にはできなかった。


「てことは、オヤジが一緒に逃げたって言ってたのはアキナのことだったのか」

「逃げ、た? そうか、そういうことになってる、のか」

「それを知っていたら、俺だって! ……いや、今はそんなことより一刻も早く、オヤジを手当しねぇと」


 ごぼっと音を立て、突然タスクの口から血が溢れ出てきた。

「お父さん、しっかりして!」

「どうやら肺をやられちまった、みてぇだな」

 苦しそうに喘ぎながらも、タスクは血の滴り落ちる口の端を無理矢理上げて笑った。


「ねぇ、遊ぼうよぉ」

 トヲルの耳元で、少女の囁く声が聞こえた。驚いて振り向くと、アイが背後に立っている。


《! むぅ、いつの間に!?》

 ペルギウスもトヲルの肩で身構えていた。


《瞬時に気配を悟られぬとは、やはり我の能力がもう限界なのじゃろう。じゃがこの気配、誠に「闇の者」なのか? 若干異物も混じっておるような。とはいえ、これもまた能力低下が要因ともなれば合点はいくが、しかし……》


 ペルギウスは何やら納得のいかないといった様子で独り、ぶつぶつと呟いている。だが今のトヲルにとっては、そんなことはどうでもよかった。

 先程の『二人を守りきれなかった』と言っていた、タスクの言葉が頭に引っ掛かっていたのだ。


 一体あれはどういうことなのか。


 トヲルは目の前で、苦痛の表情を浮かべているタスクを見詰める。

 本当は直接問いたかった。が、答えを訊くのは恐い。


「あ、そうだっ!」

 突然アイが、ぱんっと音を鳴らして手を叩いた。


「みんなに、おトモダチを紹介してあげるね。

みんなにはここで、おトモダチになってもらったの。

だってパパが、アイはここから出ちゃいけないって言うんだもん。だからアイ、いい子にしてるの。でもおトモダチも欲しかったから、みんなにはここに来てもらったんだ」

 アイがまた楽しそうに、一方的に喋っている。


「逃げろ」

 タスクがコウヅキの腕を、強く引っ張った。

「オヤジ?」


「あの娘は化け物だ。黒い炎に掴まる前に、早く逃げるんだ」

「おい、どういうことだよ。それにあの娘は、一体なんなんだよ」

 タスクの言っている意味が、コウヅキには分からなかった。


「とにかく今は時間がない。この部屋にある制御装置は、まだ生きている。そいつで下りている隔壁を操作すれば、ここから出られるはずだ」

 コウヅキの質問には答えずに、タスクは中央付近に浮かんでいるモニターの方を指差した。

「だから、早く……」言いかけたが、タスクはまた噎せ返り吐血する。


「オヤジっ!」

「俺のことは構うな。ミレイユを連れて、早く行け!」

「お父さん、そんなのやだよ。出来ないよ!」

 ミレイユが必死になって、タスクに縋り付く。


「それにこの空間は、直に消滅するんだ。こんな場所にオヤジ一人を、置いていけるわけねぇだろ!?」

《もう、遅いかもしれぬな》

 ペルギウスの低い声と同時に、この部屋に最初に入ったときよりも、更に強烈な異臭がしてきた。


 トヲルはそこでようやく我に返り、振り向いた。

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