第58話 地下通路
探査用ロボを先頭に、三人は狭い通路を歩いていた。通路内は先程と同じように薄暗かった。
「この廊下、一体いつまで続くんだよ」
球体の後ろを歩いているコウヅキが、ややうんざりしたような声で言った。
分岐点の何もない、先へ進んでも全く変化のないこの通路内では、時間感覚というものをまるで感じることができなかった。
トヲルはたったそれだけのことが、これほどまでに心許ないことだとは思わなかった。
『このドーム、外から見ても分かるとおり敷地面積はそんなに広くないはずよ。地下通路が何処へ出るかは分からないけど、もうすぐ外へ出られるんじゃないかしらね』
しかし通路の奥は暗く、周りの景色は先に進んでも全く変わらない。トヲルは自分が出口のない迷路に迷い込んでしまったような、そんな錯覚を起こし始めていた。
『でもそうね……私、あとどのくらいで出られそうなのか、先へ行ってちょっと確認してこようかしら?』
「あーっ! お前、なんで早くそれを実行しなかったんだよ。よく考えてみたら、俺達よりも速く動けたんじゃねぇか」
『あはは、私も今までそのことをすっかり忘れてたのよね』
誤魔化し笑いをその場に残し、ヴェイトは脱兎の如く奥へと消えていった。
それを見送りながら、再び三人は歩き出す。
「ミレイユ、疲れてないか?」
暫くしてコウヅキが肩越しに、ミレイユを気遣うように話し掛けてきた。
「ううん、大丈夫だよ」
ミレイユがコウヅキに向かって笑いかける。疲れを見せないその笑顔に、コウヅキは一瞬安堵した表情を見せると、再び前を向いて歩き出した。
(コウヅキはミレイユのことを、本当に大事にしてるんだな)
いつも他人にはかなり攻撃的な態度をとっているのだが、ミレイユに対してだけは、優しい表情で接するのである。
トヲルには兄弟がいないので、それがどういうものなのかよく分からなかった。しかしこの一ヶ月あまりの間、ミレイユと一緒に過ごしているうちに、なんとなくコウヅキの気持ちも少しは分かるような気がしていた。
(でもミレイユって、僕のことを弟みたいに思っているんだよな)
そのことを思い出し、トヲルは溜息を吐く。
だがその瞬間、地の底から響いてくるような音がしてきた。
三人が反応する間もなく、上から何かが降りてくる。
それは降りてきたというより、寧ろ勢いよく落ちてきた。そして通路内全域に響き渡るような大きな音を立てると、目の前の路を完全に塞いだのだ。
落ちてきたのは隔壁だった。
通常それは火災発生など、緊急時に作動するものである。それがいきなり落ちてきたのだ。
突然のことに三人は一瞬唖然としたが、コウヅキが最初に駆け寄った。
「くそっ、なんでこんなモンが急に落ちてくるんだよ!」
文句を言いながらそれを叩いてみるが、案の定ビクともしない。
更にトヲルの背後からも、大きな音と地響きがしてきた。振り向くと後ろの通路にも、隔壁が下りている。
三人は完全に、出口を塞がれてしまったのだ。
トヲルは呆然と背後を見詰めていた。
しかしまたもや畳みかけるかのように、地鳴りがしてきた。三人の間に、緊張が走る。
今度は一体どの場所の隔壁が下りるというのだろうか。
トヲルの背中に、冷たいモノが走るような感覚を覚えた。




