第57話 施設の中
第4章 対峙
ドーム内にある施設も探索することになったトヲルたち。
果たしてトヲルは無事に両親と再会できるのか。
そこで彼らが見たものとは?
「ふふふっ、楽しみっ」
楽しそうな少女の声だけが、そこから響いてきた。
宙に浮いた無数のモニターが、周りを取り囲んでいる。
その部屋の中にある灯りは、たったそれだけだった。しかし周囲を見渡せるほどには、十分な明るさである。
少女は何かを乗せるかのように、胸の辺りで右掌を上に向けた。
すると何もない空間の中から、闇に溶け込みそうなほどに黒い、炎のようなものが浮かび上がってきた。その炎の玉は掌の上でゆっくりと揺らめきながら、徐々に大きくなってくる。
しかし。
「あら?」
少女が小さく声を上げると同時に、炎の成長もピタッと止まった。瞬間、ボウッという音と共に、それが空中へと掻き消えた。
「またおトモダチが来たみたい」
モニターを見詰めながら少女は、新しい悪戯を思いついたかのように目を細めて、無邪気に笑った。
トヲル達はドーム脇に設置されている、非常扉の中へと入っていった。
そこはドーム外から地中に潜るように設置されており、地下へと続いている。
通路両脇には所々明かりも灯っており、それらが赤白く淡い光を放っていた。明かりが点いているということは、このドーム内のシステムがまだ生きているという証拠である。
『おい、まだかよ』
『う~ん、ちょっと待ってよ。今やってるんだから』
探査用ロボは触手にも見える体内コードを二~三本、扉の脇にあるセキュリティ端末にリンクさせている。
『やっぱり地上の出入り口と同様に、ロックが掛かっているわね』
コードを端末に接続したままで、ヴェイトは言った。
『さっきは簡単に開いたけど、ここはかなり厳重ね。これじゃ中に入れないわ。他に出入り口もないし、どうしようかしら』
『どうしようもこうしようもねぇって!
それにどう考えても、オヤジ達はもういないと思うぜ。絶対、ここの連中と一緒に、既に脱出してるだろ』
先程の船の中にはいなかったのである。そう考えるのも当然のことだった。
『だから折角ここまで来たんだし、念のために調べたいって言ったじゃないの。まだ探索時間もあるから、ついでなのよ……て、あれ?』
なおも反論しようとしたヴェイトだったが、途中で言葉が途切れた。
『おかしいわね。鍵が突然開いたわ』
『テメーが開けたんだろうが』
『違うわよ。私、今は何もしていないもの』
ヴェイトは何かを考え込むように数秒間沈黙していたが、やがて。
『まぁいいわ。ここで考えていても仕方ないしね。取り敢えず中に入りましょう』
コウヅキがヴェイトに促されて開閉スイッチを押すと、扉はゆっくりと重そうに開いた。
三人は探査用ロボの後に続いて、中に入っていった。しかし扉が閉まった途端、皆傾れ込むように、その場に倒れてしまった。
『な、なんだ!? 急に身体が重く……』
床に這い蹲りながらコウヅキは呻き、傍らで倒れているミレイユに顔を向けた。
『ミレイユ、立てるか?』
『う、うん。なんとか』
コウヅキがミレイユを助け起こし、トヲルがわたわたと一人で藻掻いている間にも探査用ロボは、内蔵している小型カメラを上下左右に忙しなく動かしながら、無言で暫く空中静止をしていた。
だがようやく口を開く。
『どうやらこの中の空調機能も、まだ停止していないみたいね。もう服を脱いでも大丈夫よ』
『本当に大丈夫なのか?』
いつもの軽い調子で言ったその球体に、コウヅキは疑いの眼差しを向けた。
『何よ、その目は。脱ぐも脱がないも、私は別に強制しないけどね』
画質の悪い探査用ロボからでは、その目付きまでは見えにくいはずなのだが、ヴェイトはそれを雰囲気で感じ取ったのか、不機嫌そうな声を出す。
コウヅキはそんな球体を一瞥したが、無言で服を脱ぎ始めた。やはり装着したままでは、動きづらいのである。
三人が脱いだ服は重い荷物となるため、その場に置いていくことにした。
『それじゃあ、サクサク探索しましょうっ』
ヴェイトの妙に明るい声だけが、通路内に響き渡る。




