第53話 ミレイユの想い
「駄目だ」
コウヅキは案の定、即座に反応した。
「なんでっ!?」
「ワープ圏内ならともかく、ここは圏外な上に、普通じゃない空間なんだぞ。危険だ」
「でもお兄ちゃんだって、あそこへ行くんでしょ? だったらあたしも……」
「お前には無理だ。まだ早い」
「あたし、もう子供じゃない。大丈夫だよ!」
だがコウヅキは「駄目だ」の一点張りだった。
「お兄ちゃんは、いつもそう。あたしだってお兄ちゃん達のお手伝いがしたいだけなのに、いつも反対ばかりして。
少しでもみんなの役に立ちたいのに……お父さんのことだって、あたしも助けに行きたいよ」
ミレイユはコウヅキに訴えていた。目には涙さえも浮かべている。
大きくなったら、もっと手伝えるようになりたい――。
この前ミレイユが言っていた言葉を、トヲルは思い出した。
しかしコウヅキは頑として、首を縦に振らなかった。
「とにかく駄目だ! どんな危険があるかわからないのに、そんなところへお前を行かせるわけにはいかない」
「危険なんて関係ないよ。あたしは平気だもん、絶対に行くから!」
「っ! お前、いつまでもグダグダと我が儘ばかり言ってると、本当に身ぐるみ剥がして、船の外へ放り出すぞ!」
ミレイユに対して珍しく声を荒げたコウヅキだったが、ミレイユは
「お兄ちゃんの分からずや! バカっ! 大っ嫌いっ!!」
叫ぶと階段を駆け下りて、出て行ってしまった。
「えっ!? ミレイユ!」
突然のことにトヲルは驚いて、反射的に追いかけようとしたのだが、後ろから腕を掴まれる。
「あいつのことは、放っておけよ」
掴んだのはコウヅキだった。
「でも……」
「心配ない。いつものことだからな」
「いつも?」
「あいつ、いつもああなるとすぐ部屋に閉じ籠もっちまうんだ。でも腹を空かせた頃には、必ずケロッとした顔で出てくるから問題ないのさ」
「ふっ。コウヅキの過保護ぶりにも、困ったものだな」
「…っるせぇよ」
酒瓶を煽りながら茶化したビルホークを、コウヅキは睨み付ける。だがコウヅキの瞳からは、いつもの迫力を感じることができなかった。
「そうね、取り敢えずミレイユのことは心配ないわ」
先程まで二人の遣り取りを傍観していたヴェイトだったが、考え込みながら頬に手を置き、口を挟んだ。
「お姉ちゃんには引き続き脱出ルートを探索してもらうから、あまり十分なサポートはできないけれど、あんた達二人で行ってきてくれるわね」




