第51話 救難信号
ヴェイトの言葉でこの場にいた全員の動きが、一瞬だけ凍り付いたかのように見えた。
「どういうことだ?」
直ぐに我に返ったコウヅキが、声を絞り出すように言う。
「本当にオヤジの乗った船だというのか?」
「あの船の緊急救難信号が『探々くん』を介して、こちらに送られてきているのよ。だからそれをお姉ちゃんに解析してもらったの。その時にそれがタスクの盗んだ船だと判明したわけ」
ヴェイトは険しい顔を崩さぬままに淡々と言ったのだが、トヲルの頭は逆に混乱していた。
(それって…それってつまり、あの中には…)
「それじゃあ、あの中にお父さんがまだいるの?」
トヲルが質問をする前に、ミレイユが口を開いた。
「それは分からないわ。扉が閉まっていて『探々くん』ではこれ以上、中に入れないもの。勿論、ドームの中も同様にね」
「でも『探々くん』なら扉くらい、簡単に開けられるんじゃないの?」
それに対してヴェイトは、首を横に振った。
「残念ながら、ウチのじゃ無理なのよ。何世代も前の代物だから。しかも本社でいらなくなったのをタダで譲って貰った物だから、必要最低限の作業しかしないのよね」
「何故、そんな骨董品しかなかったんだ? 最新式とまでは言わなくても、もっと新しいヤツを貰えなかったのかよ」
「コウヅキあんた、この船の船員みんなが、どんな境遇でここにいるのか知ってるでしょう? こちらだって社長に過剰要求はできないのよ。アレだって、やっと譲って貰ったものなんですからね」
メグ族の特徴でもある焦点の合わないビー玉のような蒼眼で、ヴェイトはコウヅキを軽く睨み付けた。
皆が話をしている間にも、画面は地面に横たわっている機体に近付き、そのまま周りを旋回し始めたようである。
一周回り終わったところで、それは動きを止めた。確かにその最中画面上では、扉は固く閉ざされているように見えた。
「救難信号を発信したままドームの中に助けを求め、脱出したという可能性もあるのよね。もしくは、さっきミレイユが言ったように…」
「まだあそこにオヤジ達が、取り残されている可能性もあるんだな?」
「そうよ。それにこれならば、今までタスクの乗った船の消息が全く掴めなかった理由についても、一応の説明はつくわ」
トヲルにも、ヴェイトの言いたいことは分かった。
今まで宇宙中を隈無く探索しても発見することができなかったのは、ずっとこの空間内に閉じこめられていたから、ということになる。
「だがそれって、少しおかしくねぇか?」
コウヅキがヴェイトに疑問を投げ掛ける。




