第50話 手掛かり
ペルギウスの話の続きは気になったが、今はミレイユと共に操舵室へと続く階段を上っていた。
辿り着くとセリシアが作業している向かいのデスクに置いてある、もう一台のマシンの前に三人が取り囲むようにして立っていた。船長はいつものようにエミリーを脇に携え、少し離れた場所にある自分の席で静かに彼らを見詰めている。
二人の間に立っているヴェイトは腕を組み、何やら難しい顔をしながらその画面を凝視していた。
(また何かあったのかな)
その只ならぬ雰囲気で、トヲルは益々心配になる。
ヴェイトは顔を上げこちらに気付いた様子を見せたが、即座に振り返って船長の方を向くと会話を始めた。トヲルにはジェスチャーでしか分からなかったが、船長は頷きながら何事かヴェイトに指示を出しているようだった。
「それでは早速、これを見てほしいの」
会話が終わったらしいヴェイトはまたこちらを向くと、目の前のマシンを操作した。
「これは現在、無人探査ロボから送られてきている映像よ」
そう言うと船長の背後上空に、大型モニター画面を出現させた。画面中央付近には丸い物体が浮かび上がってくる。
その画面は画像が所々乱れている上に色もモノクロで、辛うじてそれが惑星のようなものだということが分かる程度だった。
「この星は、あの窓の向こうにあるものを映し出したものよ」
ヴェイトが真っ直ぐに指を窓の外へと向けた。その方向を全員が一斉に見る。するとその向こうの白い空間の中に、惑星らしき物体が見える。
それは船から少し離れた場所に位置していたが、黄土色のマーブル模様をしているということまで、肉眼で捉えることができた。
「船長と話し合って、この船の周囲の空間を調べてみようということになったの。
ただウチが所有している探査ロボの『探々(たんたん)くん』は、性能があまり良くない上に磁場の影響もあるから、遠方までは飛ばせないんだけれどね」
ヴェイトはマシンに再び顔を戻し、話を続けながら画面を徐々にアップしていった。
「この惑星も、どうやらこの空間に飲み込まれたものみたいね」
表面にはクレーターがあるだけの、一見何もない惑星のようにも見えるのだが。
「ん? なんだあれは?」
最初にコウヅキが気付き、頭上の画面へ更に近付いて見上げる。
そこには一点だけクレーターではない、突起している部分があった。周囲と比べると、そこだけ白く浮かんで見える。そして画面はそれを中心に、クローズアップされていった。
「建物、なのか?」
ビルホークが呟いた。
それは確かに建物のように見えた。それも普段よく目にする形のものである。
「そう、建物よ。それも人間の建造物だわ」
よく見るとそれはドームの中に建てられていた。その中には大きな建物が一つしか入っていないようだ。
それは特に珍しいことではなかった。人間が他の惑星を調査研究する時などには、そういったドームが各地でよく造られたりするからだ。
つまりあの建物もそういう目的で造られたものだろうと、容易に推測できる。
「あの中にヒトがまだいるのか?」
「さあ、どうかしらね。もう既に脱出している可能性の方が高いのだけれど……それより、こちらを見て」
今度は画面がドーム脇に移動した。更に地面が拡大していく。
そこには楕円形の物体が映っていた。ドームの大きさと比べるとかなり小さい。
「この画面だとよく分からないけれど、小型の宇宙船よ」
「宇宙船?」
「ええ。恐らくはこの空間に飲み込まれた時にでも、不時着したんじゃないかしら。
それにあれは」
ヴェイトはここで一呼吸置くと、
「どうやら、タスクの乗った宇宙船のようよ」




