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うさぴょん号発進せよ  作者: 鈴代まお
第3章 発見
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第48話 副船長

 トヲルの胸には、不安が渦を巻いていた。もし間に合わなかったら……という考えが頭を過ぎる。

 しかし直ぐにそれを打ち消すかのように、頭を振った。

(まだ……あと六時間もあるんだから。きっと大丈夫、だよね)

 トヲルが不安を頭から追い出そうと必死になっていると、階段下の方から近付いてくる足音が聞こえてきた。当然、この場にいないビルホークのものである。


「ビル艦長、どうだった?」

 ビルホーク愛用の帽子が下から見えた途端、ヴェイトは声を掛けた。


「ああ、機関部のほうは異常なしだったぜ。いつでも発進可能だ」

「そう。じゃあ私はこのことも含め、船長に報告するわね。今後の対策とか、いくらなんでも私の一存じゃ決められないものね」

 ヴェイトはそう言うと急いで、既にいつもの定位置へ戻っている船長の元へ向かう。


「嬢ちゃん悪いが、俺の部屋の片付けを手伝ってくれないか」

 ビルホークはヴェイトを目で追いながら、のんびりとした口調でミレイユに言った。

「何? どうしたの?」

「部屋に置いてあった酒瓶が、さっきの揺れで殆どヤラレちまってな。中が酷い有様で、とてもじゃないが一人では片付けられそうにないんだ」

 自慢の白髭を撫でつけながら、申し訳なさそうに言った。それでもなお手には酒瓶を一本、いつものように手放さずに持っている。


(一体、何本くらいのお酒が部屋に置いてあったんだろう)

 それを眺めながら、トヲルは疑問に思う。


「うん、いいよ」

 ビルホークに向かって、ミレイユは笑顔で返した。

「済まねぇな、嬢ちゃん。……コウヅキ、嬢ちゃんをちょっと借りるぜ」

「ああ、別に構わねぇよ」


 コウヅキの許可を貰い、ミレイユを連れ立って階段を下りようとしたビルホークだったのだが、ふと振り返ると、

「ん? あの二人、何話してるんだ?」

 船長とヴェイトの方を見ながら、事情を知らないビルホークは首を傾げるのだった。






 結局、トヲルとコウヅキもビルホークたちの後に続いて、自室へ戻ることにした。

 何もすることがないトヲルは、取り敢えず操舵室内を片付けようとしたのだが、それをヴェイトに止められ、「自室で待機するように」と命じられたのである。

 作業中のセリシアの目の前をウロウロされては気が散る、ということなのだろう。


「なんかヴェイトって、いろいろ凄いなぁ。やっぱり、お医者さんだからなのかな」

 戻る途中の廊下で、三人の後ろをついていたトヲルが、ポツリと呟いた。

 先程のヴェイトの話から、只者ではない印象を受けたのである。


「お医者さんっていうより、ヴェイトはこの船で二番目に偉い人だからね」

 目の前を歩いていたミレイユが、振り返って答えた。


「は?」言っている意味が分からず、トヲルは聞き返す。

 それに気付いたビルホークは、

「ははは、なんだぼうず、知らなかったのか? あいつはこの船の副船長なんだぜ」


「えっ、そうだったの!?」

「でもトヲルが知らないのも無理ないよ。だってヴェイトが副船長の仕事をやっているところって、あたしだってあんまり見たことないんだもん」

「そりゃ普段は表立つような仕事なんて、そんなにないからな」

「けど、ヴェイトは船医もやっているわけだよね? その上でこの船の副船長もやってるなんて、やっぱり凄いや」


 メグ族という種族が、人間よりも数倍ほど知能が高いらしいということは、トヲルでも知っている。しかしヴェイトの年齢がトヲルとさほど違わず、二~三歳程年上なだけだと聞いていたから、素直に感心していた。


「あいつの爪の垢でも飲めば、お前の脳天気すぎる『馬鹿』頭も、ちったぁマシになるかもしれないぜ」

 コウヅキがトヲルに向かって、薄笑いを浮かべている。『馬鹿』という言葉を強調するあたり、嫌み度倍増である。

「お兄ちゃん!…もう、なんでお兄ちゃんはいつもトヲルに、非道いことを言うの?」

 普段からの、コウヅキのトヲルに対しての態度を見かねてか、ミレイユがトヲルに代わって文句を言った。


「そりゃぁ、あれだ。コイツの顔を見ていたら何故かは分からないけど、妙にムカついてくるからさ」

 あさっての方向を向きながら、コウヅキはしれっとした顔で言う。

「あーその感じ、俺にもよく分かるぜ」

 ビルホークもトヲルの方を見ながら、にやっと笑い同意した。


「! そんなっ、ビル艦長までっ!?」

 二人の言葉に、トヲルは大きなダメージを受けるのだった。

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