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うさぴょん号発進せよ  作者: 鈴代まお
第3章 発見
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第47話 脱出ルート

 ヴェイトの顔色の変化には、コウヅキも気付いたようだった。

「おい、どうしたんだよ」

 声を掛けたのだが、しかしヴェイトはそれには答えなかった。


「現在、どのくらいまでいっているのかしら?」

「五十六%」

「! 五十六、もうそこまで……お姉ちゃん、止まるまでにはあとどれくらいの時間?」

「六時間四十三分十八秒」


 三人はそのまま黙って、二人の会話を聞いていた。

 続いて専門用語らしきものも飛び交い、トヲルには何を言っているのか全く理解できなかったが、真剣に何かを話し合っていることだけは分かった。

 その会話には、第三者が入り込む隙はなかった。コウヅキもそれを察知したのか、それ以上は話し掛けることをしなかった。


 その間にトヲルが何気なく船長の方に目をやると、エミリーの背後に回り込んでいる姿が目に入った。トヲルの位置からではその陰で見えなかったのだが、未だに動かないエミリーの後ろで、何やらゴソゴソとやっているようである。

 そしてカチッという音がしたかと思ったら、エミリーが振動し始めて、目が突然開いたのだった。


 どうやら、動かなくなったエミリーの起動スイッチを押したようだ。

 瞬間船長の顔が、ぱあっと明るくなった。実に無邪気な笑顔である。


(船長……なんだか、すごく緊張感ないんですけど)

 自分のことは棚に上げつつ思う。


「非常にまずい事態になったわ」

 漸くヴェイトがこちらに向き直り、先程とは打って変わって真剣な表情で、眉間に皺まで寄せながら言ってきた。

「非常にまずいって、どういうことだ?」

「この空間内でかなり不安定な磁場が、いくつか観測されているみたいなの。

同時に通常では考えられないくらい、かなり高レベルなベクトル数値も確認できるわ。

圧縮率も加速度的に高くなり、更には膨張現象も始まっているようね。

それが原因で、この流れにも影響を及ぼしているみたい」


「あの、それってつまり、どういうこと?」

 きょとんとした顔で、ミレイユが質問した。

「簡単に言うと、あと六時間三十分くらいでこの空間は爆発する、ということかしら」


「爆発!?」

 三人が同時にハモって言った。


「これは私にとっても、全くの予想外なことだわ。

普通なら簡単に抜け出せるこの空間を、高密度な磁場が膨張し、なお且つその流れを不規則にさせている。

何故そのような現象がここで起こるのか、どのようなエレメントが関係しているのか……現段階では、データ不足で正確には分からないけれど。

過去にもそういう事例がいくつか報告されているとはいえ、滅多に起こる現象でもないのよね」

 ヴェイトは額に手を当てながら、独り言のようにブツブツと呟いている。


「ここが爆発したら、この空間はどうなるんだ?」

 なんとなく予想できることではあったが、コウヅキは敢えて聞いてみた。

「勿論、消滅するわ」

「まさかとは思うが、俺達は大丈夫なんだろうな?」


「それは……今は何とも言えないわね」

「! 何だと!? さっきは簡単に抜け出せるって、言ってたじゃねぇかっ!」

 コウヅキはヴェイトに詰め寄った。だがヴェイトは怯まずに、冷静さを保ったままである。


「普通なら、ね。でも状況は変わったのよ。

今この船は、磁場の流れに乗って移動しているけれど、これが正常な流れではなくなってしまったから。

本来ならこの流れに沿っていけば、外へ出られるはずなんだけど、それが正常ではないということは……つまり現在この船は、何処へ向かっているのか分からない状態なのよ」

「何でそうなるんだ?」

「恐らく膨張現象の影響で、磁場の流れが不規則になったからよ。

しかもその流れが、徐々に弱くなってきている。何れはそれも止まることになるわ」


「流れが止まったら、どういうことになるんだ?」

「エネルギー蓄積により肥大し、爆発するわね」

「………」

 船内が、しんと静まり返った。


 それを最初に打ち破ったのは、弱々しいトヲルの声だった。

「僕たちはもう……駄目ってこと?」

「それもまだ分からない。それに諦めるのはまだ早いと思うわ。今お姉ちゃんが、正常なルートを探している最中だから」

 ヴェイトの声に呼応するかのように、セリシアのキーを叩く音が一段と速くなっていった。

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