第46話 ヴェイトの説明
「この空間が出現する事態を一般的に、『磁空転位現象』と呼称しているわ」
全員がヴェイトに注目した。
「この現象が起因することには、いくつか説があってね。人間も含め、他星の専門学者間でもまだ議論段階なんだけど、今は関係ないことだから省略するわね。
結論から言うとこの空間に関しては、まだ全てが解明されているわけじゃないのよ。出現場所が予測不能だから、というのがその理由なんだけど……」
「予測不能?」
「そう。この空間は一定の時間を置いて、磁空転位をすると言われているわ。
そしてその転位場所も時代も、予測することができない。
つまり一度転位したら次にどの場所、時間に飛ばされるか分からないの。
最初に居た場所や時代には、もう戻って来られないと考えていいわね」
「なんだと!? それじゃ、俺達は……」
言いかけたコウヅキの言葉を、ヴェイトは静かに制した。
「まだそうと決まったわけではないわ。私達はこの空間へ飲み込まれただけで、転位まではしていないはずだから」
「何故それが分かる?」
「理由は簡単。さっき私が見た航行記録よ。
それを見ると、磁場の大きな乱れが生じたのは一回のみだった。勿論、私達のいた空間へ転位してきた時ね。
もしその後に再び転位したとなったら、少なくともあと一回は大きな磁場の乱れが記録されるはず」
と、ここでヴェイトは腕を組み直しながら、横に座って作業をしているセリシアに顔を向けた。
「お姉ちゃん、次の転位までの時間は、もう割り出せたかしら?」
「約十三時間後です」
今は仕事中だから、なのだろうか。速攻で答えたその声は、弟のヴェイトに対しても事務的な口調を崩さなかった。
「あと十三時間、ね」
ヴェイトは顎に手を当て、考え込むように頷いた。
「で、結局どうなんだよ。あと十三時間はあるんだろ? それにこの空間から抜け出すことができるのかできないのか、それだけでも教えてくれ」
これはこの場にいる誰もが知りたいことである。
皆、ヴェイトの次の言葉に注目した。
「結論だけ述べれば、できるわよ。それも簡単にね」
ヴェイトは意外にあっさりと言う。
「この空間に関してはまだ研究途中だけど、磁場の流れにはある一定の法則があることが分かっているの。
それは外から内に流れ、やがては内から外へ。そうやって循環を繰り返しているらしいわ。
しかも現在この船は、それに流されている状態よ」
「てことは、どういうことだ?」
「この流れに沿って行けば、いつかは外に出られるってワケ。とはいっても、この速度だと勿論、十三時間以内には出られないわね。でもこの流れを予め予測して読むことができれば……」
「時間内にここから抜け出せるんだな」
「そう。その法則も、比較的単純な計算方法で割り出せるって話だし。
だからお姉ちゃんならあと数分ほどで、その法則を容易く見つけ出せると思うわ。
後はそのルート通りに移動を開始するのみ、よ」
ヴェイトはコウヅキに向かって軽くウィンクをしながら、自信たっぷりに言った。どおりで先程からヴェイトが、このような状況下でも落ち着いていると思っていたのだ。
しかしセリシアが、隣に立っていたヴェイトの腕を突然引っ張った。
「何、お姉ちゃん。もうルートは見つかったの?」
笑みを浮かべながら、ヴェイトはセリシアを見たのだが。
「……これ」
キーを叩く手を休め、かわりに画面を指差した。ヴェイトは言われるままに覗き込む。
「!」
みるみる顔色が変わっていくのが、トヲルにも感じることができた。
「これ……まさか……?」
ヴェイトがセリシアの顔を凝視すると、セリシアはコクリと無言で頷いた。




