第3話 目を開けると
ズキズキと、身体が痛い。
(ううっ。なんかイヤ~な夢、見ちゃったなぁ)
まだはっきりしない頭で、トヲルはうっすらと目を開ける。眼前には見覚えのある絨毯があった。家の居間に敷いてあるものだとすぐにわかる。
(それにしてもなんだろ、この痛み。なんか背中が痛いような? 特に首の辺りが痛いんだけど、もしかして寝違えたか?)
トヲルは自分がうつ伏せの状態で、絨毯の上に横になっていることに気づき、起き上がろうとした。が、瞬間凍り付く。
「よう。やっとお目覚めのようだな」
頭上で男の声がする。視界が徐々に鮮明になり、男の足も目の前に見えているのだが、顔を上げて男の顔を見る勇気がなかった。
(ひぃぃぃ~っ! アレって夢じゃなかったのか!? しかもこの人、押し売りじゃなくて強盗っ!?)
次第に全身が硬直し、血の気が引いてくるようだった。
「これでやっと落ち着いて話が……」
「あ、あのっ。ウチはホント、取られるようなものなんて、何もありませんからっ。あ、でもでもっ、何か取りたいんだったら何でも取っていってかまいませんよ! だっ、だっ、だからっ、い、命だけは取らないで!」
トヲルは絨毯に顔を埋めて男の言葉を途中で遮り、悲鳴に近い金切り声で喚いた。
「だから、違うっつーのっ! 話聞けって」
鈍い音がトヲルの脳天を直撃した。
「いひゃっ」情けない悲鳴を上げ、思わず頭を抱え込む。
それを横目で見ながら男は何処から持ってきたのか小型の果物ナイフを弄びつつ、近くにあった椅子に勢いよく座った。そして、
「じゃあ、単刀直入に言うけど」
と、切り出した。
「あんたの両親は今、何処にいる?」
思いもよらないことを尋ねられ、トヲルは一瞬、その言葉の意味を理解できなかった。
しかし。
(もしかしてこの人、強盗じゃなくて父さんと母さんを狙う刺客?)
そう思ったが口に出しては言わなかった。また殴られそうだったし、今度はナイフで刺されそうな気もする。
トヲルはできる限り冷静さを保ちながら、小さくなっていた身体をゆっくりと起こす。そして、先程から疑問に思っていたことを言ってみた。
「あ、あの。何でそんなこと聞くんですか? あなた一体、誰なんですか?」
男はその問いに対して、少しバツが悪そうに若干長めの前髪を掻き上げると、自分はゴードン商会の者で、名前は『コウヅキ・シリウス』だと名乗った。




