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うさぴょん号発進せよ  作者: 鈴代まお
第2章 解印
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第38話 ダイブ

 トヲルは着替え終わると、直ぐに船長の所へ向かうことにした。またぐずぐずしていたら、コウヅキに何を言われるか分からない。


「そういえば君の名前、聞いてなかったね。僕はトヲル。……君は?」

 廊下を歩きながら、肩に乗っている小動物に話し掛けた。


《我の名か? 我が名はペルギウス。

皆からは「ペル」という愛称で親しまれておった。其方もそう呼ぶがよい》

(そう呼ぶがよい、って命令されてもなぁ……確かに、そっちのほうが呼びやすいけどさ)

 愛称まであるのか、と内心呆れつつも先程の話を尋ねてみる。


「あの……じゃあペル、さっきの話だけど。『礼』って一体?」

《我ら種族は、非常に義理堅いのじゃ。故に、受けた恩は必ず返さねばならぬ》

「そうなんだ。でもそれって具体的には、どんなことをするの?」

《まだ考えてはおらぬ》

 アッサリと言った小動物に対して、トヲルはガクッと転けそうになった。

「な、何だ~。まだ決まってないのかぁ」


《じゃが、早急に何かを考えるぞよ。其方も何かして欲しいことがあるのであれば、我に遠慮無く言うがよい。出来る範囲内でなら、何でも言うことを聞くぞ》

「いや別にそんな、無理に返してもらわなくたっていいよ。特にして欲しいこととかも、ないしさ」

(助けたのも偶然だしね)続けて口には出さず、心の中で思う。


「それに、僕がして欲しいことは君には無理だと思うし」

《何じゃ? やはり其方、何か願いがあるのじゃな?》

「そうだけど。君には絶対に叶えることのできない願いだよ」

《それでも構わぬ。例えそれが叶わぬとて、言うだけなら損はあるまい?》

 トヲルはその場で立ち止まると暫く迷っていたのだが、ペルギウスの言うことも一理あるような気がした。


「それじゃ一応言うけど……僕の願いは『両親を捜してほしい』。それだけだよ」

《両親? その者達が今何処におるのか分からぬ、ということか?》

「うん、でも無理だよね。今この船でも探している最中だけど、それでも見つからないんだから」

 このような小動物一匹がそれを見つけ出せるとは、とても思えなかった。


《じゃが、やってみる価値はあるかもしれぬぞ》

 ペルギウスはそう言うと、トヲルの頭に移動した。

《其方、両親の顔を思い浮かべるのじゃ》

「え? う、うん」

 ペルギウスが一体何をするつもりなのかは分からなかったが、トヲルは言われるままに目を瞑った。その間額には、柔らかいモノが当たっているような感触がする。もしかするとそれは、ペルギウスの肉球なのだろうか。


《……これで其方の思考は読み取ったぞよ》

 再びペルギウスはトヲルの肩に移動した。


《我には透視力がある》

「えっ!?」

《それは、遠方のものを探索することにも用いられる》

「そ、それじゃあ……?」

 トヲルは一筋の淡い期待を抱いたのだが。


《しかし今の我では本来の能力の半分にも満たない。つまり、成功するか否かは分からぬということじゃ》

「な、なんだよ~。期待させないでよ」

 一瞬で谷底まで突き落とされたような気分である。


《我は「やってみる価値はある」と言うたのじゃ。確かに成功する確率は、一割にも満たない》

「一割!? それじゃ、絶対に無理じゃないか」

《無理かどうかは、やってみなければ分からぬぞ。例え少ない可能性でもそれに賭けることができる、とは思わぬか?》

 最初から無理なことを、何故しようとするのだろうか。トヲルにはペルギウスの言っていることが分からなかった。


 トヲルが暫く沈黙していると。

《我は取り敢えず、それを試してみることにしよう》

 おもむろにぽんっと軽くペルギウスは飛ぶと、トヲルの手のひらに着地した。


《我は意識を集中し、深い潜り(ダイブ)に入らねばならぬ。その間其方には、我を落とさぬように頼みたい》

「そんな勝手に! それが無駄だって分かっているのに、何で?」

《我には時間がない。我の宿りしこの身体は、もうそれほど長くは持たぬのじゃ》

 ペルギウスは目を閉じながら、静かに答えた。

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