第36話 謎の小動物
「コウヅキ、今なにか喋った?」
「はぁ? 何言ってんだよ」
一応訊いてみたのだが、一蹴されてしまった。
(そう、だよね。今の声コウヅキのじゃないし。それに……)
声、というよりは直接脳に響いてくるような感じだった。
《我の言語、其方に届いておるか?》
また声がしたので、トヲルは慌てて辺りを見回してみた。
《やはり我の言語が、無事に届いておるようじゃな。……我はここじゃ》
小動物が、すとんっと膝の上に乗ってきた。小首を傾げながら黒い瞳で、下から覗き込むようにトヲルの目をじっと見詰めてきた。
「ま、まさか……」
ソレを見詰め返したトヲルは、ようやく理解した。
「どっ、どっ、動物が喋ってるっ!? 動物が喋ってるよっ、ねぇ、コウヅキ!」
思いも寄らない出来事でパニックに陥ったトヲルは、隣にいるコウヅキの肩を、ガクガクと強く揺さぶった。
「――っ! るっせーぞっ!」
ゲシッという音と共に、トヲルの顔面中央に拳が炸裂する。
「それに動物が喋っただのって、ワケわかんねぇ」
「へ?」
顔を押さえ涙目になりながらも、トヲルは訊き返した。
「コイツが喋るわけねぇだろ。俺には何も聞こえねぇぜ」
(……もしかして僕にしか聞こえていないって、こと?)
《我が同胞の気配は……もはや感じられぬ、か》
ポツリと呟いた小動物はいつの間にかトヲルの膝の上から身を乗り出すと、窓の外を眺めていた。
食い入るように眼下を見詰めるその瞳には哀しみの色が宿っているように、トヲルには感じられた。
「しょれが、あの惑星での収穫でちか」
船に帰ったトヲル達を出迎えたのは、エミリーに抱かれた船長とミレイユだった。ビルホークは連日徹夜続きだったため、現在は仮眠中だという。コウヅキは小型船を降りると、さっさと一人で更衣室に入ってしまった。
「きゃあ、かわいいっ。なにこれ??」
ミレイユははしゃぎながら肩に乗っている小動物を、ぐしゃぐしゃと撫で回している。
《い、痛い……ぞよ》
「ミレイユ、なんか痛がってるよ」
「えっ、そうなの?」
(やっぱり声、聞こえてないんだな)
トヲルは密かに溜息を吐いた。
「では早速、しょれをこちらへ引き渡すでち」
船長がトヲルに向かって、小さな手を差し出してきたのだが。
「船長、ちょっと待ってください」
「む? 何でちか」
「あの、その……この生き物、僕にしか懐いてないみたいなんで……。だから着替え終わってから……後から僕が持っていきます」
トヲルからの意外な申し出に怪訝そうな表情を浮かべると、船長は暫く思案していたのだが。
「分かりまちた。……まあ、いいでしょう。しょれでは君が後で、こちらへ連れてきてくだしゃいね」




