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うさぴょん号発進せよ  作者: 鈴代まお
第2章 解印
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第34話 脱出

 トヲルは呆然とそれを見ていたが、すぐに我に返った。

「あの~扉、開いちゃったんですけど……やっぱり中に入ったほうがいいんですよね?」

『当たり前でち。今更何言ってるでちか』

 船長は当然のことのように言い放った。そしてトヲルはここで、初めて気が付いた。


(船長に扉が開いたことを言わなければ、こんなことをしなくてもよかったはずじゃ?)

 小型無人探査用ロボを一緒に連れてきていないため、船長からはトヲルの行動など一切見えていないはずである。しかしそのことに今頃気づいても、もう遅かった。

 仕方なく腹を括ると、身体を折り曲げながら狭い扉の奥へと入っていった。ライトを照らして辺りを見回してみると、そこは洞窟のような場所である。入口が狭い割には天井はトヲルが立ち上がっても、少し余裕があるような高さだった。

 そして更に奥の方を照らしてみると。


「あれ? なんだろ??」

『何かまた見つけたでちか?』


 ソレはトヲルの目には、何かを閉じこめるための檻のようにも見えた。

 奥を刳り抜かれ、手前には数本の柱のようなものが立っている。それが柵に見えたのだ。

 そしてその中には――。


「石?」

 トヲルが更に近付いてよく観察してみると手前の柵には、また同じような梵字の描かれた紙が貼ってあった。

「船長、また同じ紙があるんですけど」

『勿論、それも持ってくるでちよ』

(一枚あれば十分だと思うんだけど……)

 トヲルはそう思いながらも、手を伸ばしてそれを取った。今回も簡単に剥がすことができた。


 手に取り二つを見比べていたその時、檻の中に入っていた石が一瞬光った。

 トヲルが驚いて顔を上げた瞬間、それよりも更に強い閃光が放たれ爆発したのである。その爆風でトヲルの身体は浮き上がり、天井へ叩き付けられてしまった。

 全身を打ったわりには全く痛みが感じられない。装着している宇宙服がクッションの代わりでもしたのだろう。その上、入口も狭かったおかげで外にも飛ばされずにすんだのである。


『おい、なんだ!? 何か光ったぜ!』

『何? どうちたんでち?』


 その声でトヲルは目を開いた。気が付けば、地面に転がっていたのである。

 もう既に光は消え、再び闇に戻っている。トヲルは地面に倒れたまま慌ててライトで辺りを確認すると、檻が崩れて瓦礫の山ができていた。そして周りの壁には、至る所に亀裂が入っている。

 また地面が揺れた。今度はいつもの微震だったのだがそれに伴い、壁に再び無数の亀裂が入った。


『おい、梯子を下ろしたぜ。そこから早く脱出しろっ!』

 異変を察したコウヅキが言い終わる前に、トヲルにしては稀に見る素早さで行動を開始していた。

 必死に穴から這い出ると最初にトヲルが乗っていた岩盤はいつの間にか崩れ、もう既に跡形もなくなっていた。その付近には船から持ってきた簡易梯子が下りているのが見える。


 トヲルは考える間でもなく夢中でそこへ飛び込み、梯子にしがみついた。そして脱出した。

 だが、それで安心している暇はなかった。やはり先程の爆発のせいなのだろうか。上った先の地面もまた、無数の亀裂が入っていたのである。落ちる前にはなかった亀裂だ。


『このままここにいたらマズい! 早く外へ出るんだ』

 自分達が通ってきた穴の方を見ると、コウヅキが荷物を抱えてこちらを見ていた。


 また微震がする。もし再び大きな揺れが起こったら今度こそ、この床が本当に崩れるかもしれない。

 そう考えたトヲルは急に恐くなり、慌ててコウヅキの元へと駆けていった。途中「穴の中も崩れて生き埋めになったらどうしよう」と一瞬不安も過ぎったが、幸いにも大きな地震がなかったためか無事に穴から這い出ることができた。


 トヲルは出た途端に安心したのか、その場にへたり込んでしまった。と、今度は大きな揺れが起きた。物凄い地響きが身体中を伝って感じられる。もしかすると先程までトヲル達の居た場所が、とうとう崩れだしたのかもしれない。

 とにかく逃げるときには無我夢中だった。まだ身体の震えは止まらない。今になって恐怖感が全身を包み込んできた。


『あのさあ、トヲル』

 うずくまっているトヲルを眺めていたコウヅキだったが、ようやく話し掛けてくる。

「なに?」

 まだ肩で呼吸をしているトヲルは、そのままの体勢で返事をした。

『その……』

 コウヅキにしては珍しく、何故か言いにくそうな口調である。


『お前の背中に、何か乗ってるぜ』

「へ?」

 そういえば背中が重いような……。今になって初めてそれに気が付いた。


「な、ナニが……乗ってるって?」

 恐る恐る訊いてみる。自ら振り返ってソレを見る勇気はない。

『あぁ、ちょっと待ってろ』

 コウヅキはトヲルに近付き、背中から何かを乱暴に引き剥がした。


『コイツだ』

 そう言うとトヲルの目の前に、ソレをぶら下げた。

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