第29話 うさぴょん号、その名の由来?
トヲルは昨日初めて会ったばかりの、ウサギの面をつけた社長の顔を思い浮かべた。
「あの社長、が?」
「うん」
「ていうかあの社長って、一体どういうヒトなの? なんか変なお面つけてるし。訳の分からない歌と映像も、バックに流れてくるし」
「トヲルも社長に会ったことあるんだね」
「昨日初めて、だけどね」
「でも、あたしもよく知らないんだ。きっと、みんなあの社長の顔、知らないんじゃないのかなぁ。お兄ちゃんなんか『得体の知れないヤツ』って、いつも言ってるよ」
どうやらこの船員達にも素顔は隠しているようである。
トヲルはここで、ふと思いついて聞いてみた。
「ひょっとして、この船の名前もあの社長が付けた……て、ことは?」
「うん。『うさぴょん号』って名前も社長なんだって」
(やっぱりだっ!)
トヲルの推理(?)は当たった。
以前からどことなくこれらのネーミングには、共通したものがあるような気がしていたのである。但し「どんな共通点か?」と聞かれても、うまく答えられる自信はなかったが。
「元々はこの船、船長のものだったでしょ? だから最初は船長が、別の名前を付けてたんだって。それを無理矢理変えたらしいよ」
「む、無理矢理?」
「ある日突然この船を『うさぴょん号』という名前に変えるって、社長が言い出したらしいの。で、その理由なんだけど『船長に一番ピッタリな名前を閃いた』から、だって。」
「それって……社長がその場で思いついたってこと?」
「うん、多分。船長はその時、最後まですごく嫌がったみたい」
(うう……なんかご愁傷様、としか言えないような)
その時の光景が目に浮かぶようである。
「もしかして、それもコウヅキから聞いたの?」
「ううん、これは違うよ。これはお父さん、から……」
そう言うとミレイユはトヲルから目線を逸らし、金網の向こうをじっと見詰めた。
「あ! ああ、ええっと……星、すごい綺麗だよねぇ」
トヲルは寂しそうなミレイユの横顔から何となく気まずさを感じ、慌てて上を向く。
「え? うん」
ミレイユも釣られて上を向いた。
二人は暫くそのまま無言で満天の星空を眺めていたのだが、やがて。
「あの宇宙の何処かにお父さんが、いるのかな」
ポツリ、とミレイユが呟いた。




