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うさぴょん号発進せよ  作者: 鈴代まお
第2章 解印
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第28話 出航前日、屋上にて

「……眠れない」


 トヲルは自室のベッドの中で呟いていた。

 部屋の中はクローゼットと小さなテーブル、洗面台、ベッドが置かれているだけのシンプルな造りだった。整理整頓がきちんとされている綺麗な部屋だが物が殆ど置かれていないため、片付けもあまり必要がなさそうである。


 自室……とはいっても、ここは元々タスクの部屋だった。タスクが戻ってくるまでの間だけ、トヲルが一時的に使わせてもらっているのである。

 トヲルの荷物は一ヶ月以上が経った今でも、家から持ってきた大きめなバッグの中に入れたままになっていた。それは今部屋の片隅に、申し訳なさそうに置かれている。一応ここは他人の部屋なので何となく、自分の荷物を部屋のあちこちに置くのは気が引けたのだ。


「はあ…」トヲルは天井を見詰め、溜息を吐いた。


 今日は明日の準備でいろいろと忙しかった。

 ミレイユと二~三週間分程の食料を調達に行ったり、ビルホークからは事前に注文しておいた必要な部品を至急取ってくるよう、頼まれたり。船長からもいろいろ細かい命令をされたりしたのだがあまりにも忙しすぎて、何を手伝っていたかなどいちいち覚えていない。

 合間には身体検査もさせられた。トヲルにとっては非常に残念なことだったが、ヴェイトからは『健康優良児』の烙印まで押されてしまったのである。


 それほど働いていたので疲れて熟睡できそうなものだったが、逆に頭が冴えて全く眠れなかった。

 理由は、自分でも分かっている。


 明日には宇宙へ出るのだ。それも数日後には惑星へ到着し、そこで船外活動をしなければいけないのである。

 かなり不安だった。


 トヲルは布団を頭から被り、寝返りを何度も打ちながら暫く目を閉じていたのだが、やがて起き上がった。

「ああもう、外の空気、吸ってこよう」

 トヲルはドアを勢いよく開けて、外へ出たのだ。






 船の置いてあるビル屋上の扉を開けると、そこには既に先客がいた。

「あれっ、ミレイユ。こんなところで、どうしたの?」

「トヲルこそ」


 普段はツインテールにしている髪も今は下ろし、パジャマを着ていた。ミレイユの髪は背中の中心まであり、トヲルが思っていたよりも長かった。

 トヲルが側へ近付くと、

「もしかしてトヲル、眠れないの?」

 心配そうな表情でミレイユがトヲルの顔を覗き込んできた。


「うん、まあ……あ、じゃあミレイユも同じ?」

「あたしは……」

 そう言いながら視線をずらして、ミレイユは下を向いた。


「あ! 『ソウ太くん』て、まだ働いているんだね」

「え?」

 金網越しに指を差した方向を見てみると、真下にある街灯の明かりの中で『ソウ太くん』が忙しそうに動いているのが小さく見える。

「へ~。『ソウ太くん』て、こんな夜中にも稼働してたんだ。知らなかった」

 トヲルは素直に驚嘆した。


「ねえそういえば、トヲル知ってる? 『ソウ太くん』の本当の名前」

「本当の名前? 『ソウ太くん』……じゃ、ないの?」

 トヲルは首を捻った。ずっと『ソウ太くん』で通しているので、そのような話は聞いたことがない。


「本当の名前は『ソウジキ太郎・ターボ六号』って、言うんだよ」


「……は?」

 一瞬、間を置き。


「それ、本当なの?」

「最初お兄ちゃんから聞いたから、本当かどうかは分からなかったんだけどね。でもその後で気になったから『ソウ太くん』を近くで見てみたの。そしたらボディにその名前が本当に書いてあって、凄くビックリしちゃった。トヲルも後で見てみるといいよ」

 くすくす笑いながらミレイユは答えた。


「でも、ターボ六号……って」

「なんか、ターボになってから今のものは型番が六番目、なんだって。よく分かんないけど」

(なんてネーミングセンスがないんだろう……)

 トヲルは呆れながらも釣られて笑った。


「前から思ってたんだけどそういう名前って、一体誰が付けてるんだろ。『うんぱんくん』なんかも、これと似たような感じだよね」

「これもお兄ちゃんから聞いたんだけどね」

 ミレイユがまだ笑いながら続ける。


「それ全部、ゴードンローンの社長が付けてるって話だよ」


「……は?」

 二度目の驚きである。

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