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うさぴょん号発進せよ  作者: 鈴代まお
第2章 解印
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第25話 戦場での出会い

第2章 解印


両親の借金により、船の仕事(主に雑用)を手伝う毎日を送っているトヲル。

そんなある日、コウヅキと共に他惑星へと降り立ち、船外での作業もすることになった。

その星で、トヲルが出会ったモノとは…。

 コウヅキの知る限り、タスクという人物は情に厚い男である。


 タスクとミレイユは血の繋がりがなかった。


 知り合ったのは、とある惑星の戦場と化したドームの中。

 逃げ遅れた民間人の母親らしき女性が守るように、まだ幼いミレイユを抱いていた。母親は建物の下敷きになり、虫の息だった。


 ミレイユを最初に発見したのは、当時少年兵として敵地に送り込まれていたコウヅキだった。

 軍からは「敵は全て殺せ」という命令を受けていたため、躊躇なく二人に銃を向けた。

 だがそれを制止したのが、同じ部隊に所属していたタスクだったのである。


 タスクは普段から傭兵としても変わり者だった。


 向かってくる敵には容赦がなかったが、戦意喪失者に対しては決して銃を向けることがない。

 一度、敵に殺されかけたコウヅキを庇ったこともあった。


 戦場では己の身を守れるのは、自分だけである。

 それができぬ者は死、あるのみだ。

 コウヅキ自身も死ぬことには、全く恐怖を感じていなかった。毎日大量の殺戮を目の当たりにしていても、何の感情も湧いてこない。


 そのようなものはとうに捨てていたのだ。感覚もそれに慣れ、麻痺していった。






 その後タスクは軍に見つからないようにミレイユを数日間、廃墟で匿っていた。


 だがある日、ミレイユの様子がおかしいことに気付いた。親しくしている軍医に診てもらったところ、心臓に欠陥のあることが判明したのである。

 大きな病院で適切な治療をすれば直る見込みがある、と軍医からは伝えられた。当然軍には、それを治療できる設備などなかった。

 程なくしてタスクは部隊を脱走することを、コウヅキに告げたのだった。


 部隊を脱走するということは、弱い負け犬のすることだ。

 コウヅキは脱走する者にはいつも、軽蔑の眼差しを向けていた。


 しかしタスクは

「あの母親と約束をしたからな」

 と、ポツリと呟いただけだった。


 約束?

 それだけで?


 何故そこまでして、赤の他人の子供を助けようとするのだろうか。

 そのまま放置していれば何れは死ぬ。助ける義理もないはずだ。

 コウヅキには分からなかった。


 更にそれをコウヅキにも手伝ってほしいと、タスクは頼んできた。

 コウヅキは「何故自分に頼むのか」、と驚いた。

 前から親しそうな軍医ならともかく、自分は偶々あの場に居合わせただけである。タスクのことを裏切らないという保証は、何処にもない。


 そのことを言うと、

「コウヅキを信頼しているから頼むんだ」


 真摯な眼差しを向けてそう言ってきた。


 確かにこのことを知っているのは、タスクと軍医とコウヅキの三人だけである。コウヅキがタスクを軍に売らなかったのは単純に『面倒なことには関わりたくなかった』、それだけだった。

 例えもしこのことを軍にバラしたとしても、コウヅキには何の得にもならない。

 決して、タスクのためなどではなかったのである。


 何故この男は、死んだ見ず知らずの者との約束を守ろうとするのだろうか。


 何故この男は、簡単にヒトを信頼できるのだろうか。


 何故この男は、このような状況下で他人を思いやるような、そんな余裕があるのだろうか。


 そしてそれができるこの男は一体、何者なのだろう。






 数日後、部隊からの脱走は成功した。

 脱走に失敗した者は見つかれば厳重に処罰されるが、成功した者を深追いはしない。一傭兵が脱走したからといって、軍全体が動くことはないのである。


 結局コウヅキも成り行きで、一緒について行くことになってしまった。

 成り行きとはいえ、今でも何故そのような行動をしてしまったのかは、自分でもよく分からない。


 ただ、興味があった。


 もしかするとこれから先の男の行く末を、見てみたかっただけかもしれない。

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