第24話 ゴードン商会社長
モニターは最初、真っ白な画面だった。
その白い画面中央部分に、小さな点のようなものが見えていた。それがバックミュージックと共に徐々に大きくなってくる。と、機械音で作られたような声も聞こえてきた。
『うっさ、うっさ、ぴょ~ん、ぴょん、ぴょぴょんっぴょ~んっ!』
点が大きくなってくるにつれ、その声も段々大きくなってきた。
それは、ウサギのアニメーション画であった。
そのピンク色をした物体が人参を持ちながら徐々に画面に近づいてきて、中央付近で踊り、歌っているのだ。
(な、なにコレ?)
まるで、幼児番組のオープニングを見ているかのような気分だった。
と、また急に画面が切り替わった。今度は『ウサギのアニメ』ではなく、『ウサギの面をつけた実写』のヒトが、画面に映る。どうやらその面は、先程のウサギを模したものらしい。
『やあ、うさぴょん号の諸君、久しぶりだね』
軽く右手を挙げて、そのヒトは画面の向こうから挨拶をしてきた。
顔部のみを覆い隠す面をつけているせいか声がくぐもっており、男女の区別は付かなかった。しかし画面へ映し出されている上半身を見ると、華奢な体格をしてはいるが男物のスーツも着ており、明らかに人間の男性である。仮面の隙間から覗いている金色の頭髪が薄くないことから考えると、それほど年配の男性ではないのかもしれない。
『そしてトヲル・藤崎君、初めまして。私がゴードン商会兼ゴードンローン社長の、ラファエル・S・ゴードンです』
「は、は、初めまして」
今まで唖然として見ていたトヲルは急に社長から個人的に挨拶をされ、慌てて返した。
『このような格好で済まないね、トヲル。ヒト前に顔を晒すには、やはり抵抗があるものでね』
それならばこのように、本人自らが直接出て来なくとも良いはずであるが。
(それに最初に出てきたあのウサギと歌?って、何だったの?)
アレをこの社長が、故意に誰かに作らせたのだろうか。全く理解ができなかった。
『ところで船長。まさか私が君達にあのように思われていたとは、心外ですね』
「! やっぱりさっきの話、あんた聞いていたんだな!?」
「しょ、しょういうつもりじゃないでちよっ。コウヅキの口車に乗っただけでち!」
同時に二人は声を上げた。しかも船長は、訳の分からない言い訳を言っている。
『まあ、いいでしょう。確かに他の部下の手前、私の一存で人材を派遣できないのもまた、事実ですからね』
怒っているのかいないのか。ピンク色をした仮面の上からでは、その感情を読み取ることができなかった。
『それはともかく船長、あの仕事の件だが……』
「あの仕事? ……ていうと、鉱物回収のことでちか?」
『そう、それなんだが、出発を明後日にしてはもらえないだろうか?』
「え? あの……予定では一週間後って、はずでちたけど?」
船長は困惑している様子だった。
それも無理はない。宇宙へ出るにも、普通はそれなりの準備期間を設けるものだ。いくら急いでいるからといっても、明後日とはかなり急な話だった。
『こちらにも、いろいろと事情ができてしまってね。早急にアレを、手に入れなければならなくなってしまったものだから』
「で、でちけど、その……いくらなんでも明後日とは、無理があるような」
『そうそう、一つ言い忘れていたことがありましたね』
社長は急に、何かを思い出したかのように言った。
『この仕事への報酬のことです』
「あ! そういえばそうでちた。しょの金額を聞くのを、しゅっかり忘れていたでち」
「て、おいっ! それって、この船には大事なことじゃねぇか」
社長から船へ依頼された仕事には、当然給金が支払われる。それを乗組員全員で分配し、それが借金返済に充てられるシステムになっていた。
「で、いくらなんだ?」
コウヅキが船長の代わりに、社長に問いかけた。
『こちらでも、かなり無理なことをお願いしているのでね。勿論その分の手当も付きますよ。具体的な金額はここでは言えないけれど、通常の二倍は確実に出してあげましょう』
「やるでちっ!」
……船長は速攻で答えた。




