第23話 船外作業
「これを見てほしいでち」
船長が指を差した大型モニターを見ると、いつの間にか別の画面が表示されていた。
黒く鈍い光を帯びた、少し太めの棒状のようなものが、五~六本ほど映し出されている。画面越しにでも分かるくらいの堅そうな地面に、まるで突き刺さっているかのようだ。
「これは、小型無人探査用ロボからの映像でち。ここにある鉱物を回収してきてほしいんでち」
「この棒みたいなヤツを、か?」
「そうでち。わたちも社長から詳しいことは聞かされてないんでちけど、なんでも希少価値のある鉱物らしいでち。で、社長は早くこれを手に入れたいらしいんでち」
「でも何でウチの船なんだ? 輸送船とはいえ今は上からの命令で、船を動かせないんじゃなかったのか?」
「確かに社長からの命令でトヲルを拘束していることもあって、船を動かすこともできなかったでちけど」
(この船って、輸送船だったのか)
ここで初めてトヲルは、この船の目的を知った。
「ちかち他の船が今現在出払っているらちくて、それでウチにこの仕事が回ってきたみたいなんでち。しょれにこのくらいならどんな素人にだってできる、簡単な仕事でちよ」
船長はいつもの軽い調子でそう言ったのだが。
(このくらい、って……)
この星を出たことのないトヲルにとっては、簡単な話などではない。それもワープ圏外である。更に他の星での船外活動だ。
そこは勿論、ドームの中などではない。当然宇宙服を着ての作業になる。宇宙服は体験見学で一度着たことはあったが、その程度だった。
トヲルは急に不安が込み上げてきた。
「あの……いくら人手不足とはいえ僕が行くより、慣れているヒトのほうがいいと思うんですけど。この船からというのが無理なら他のところから派遣してくるとか、そういうことはできないんですか?」
トヲルは一応訴えてみた。しかし。
「あのケチな社長が、そんな気の利いたことをしてくれるとは到底思えねぇな」
「同感でち」
最初から言っても無駄、ということなのだろうか。二人の意見が何故か一致しているようだ。
「船長」
突然、女性の声がした。その主の方向を見るとセリシアである。
「ゴードン商会社長から、通信が入っています。回線、開きますか?」
こちらには顔を向けずに目の前の画面を見据えたまま、抑揚のない事務的な口調で問い掛けてきた。
「!?」
船長は一瞬ビクッと反応し、
「あ、ああー……ええっと、つ、繋いでほしいでち」
同時に冷や汗のようなものも掻いているように見える。
(そういえば社長って、どういうヒトなんだろ?)
トヲルは会ったことがなかった。
ゴードングループは代々『血族経営』を守り、その総帥もまた創業者の血筋を引いている者である。
総帥には息子が三人おり、それぞれが複数の傘下企業の経営を任されている、と聞いたことがある。この商会やローン会社もその一つ、というわけなのだ。
何れはゴードングループ総帥の座も、三人の息子の何れかが後を継ぐことになるのだろう。
モニターから音楽が流れてきた。
その軽快なリズムに乗せられるかのように反射的に上を向いたトヲルは、呆気にとられてそれを見詰めた。




