第22話 両親の逃亡先
地球は、ワープ圏外に位置する。
トヲルはそれがここからどれ程の距離なのかを正確には知らなかったが、ワープ圏内が約十二光年前後なので、それ以上の距離だということは容易に分かる。
「地球? だって、あそこに住んでるのって確か……」
「そうでち。君達が『守人』と呼んでいる、地球を監視している者達でち」
人類が地球を出る時に、この場所を無人にするわけにはいかない、という案があった。そこで各星から選抜した者―――当然、人間の中からではあるが―――を派遣し、守護しているのである。
「でも何だってオヤジ達は、そんなところへ? それに、本当に地球へ向かったのか?」
「これはあくまでもワープ着地地点から割り出された、推測にしかすぎないでちけどね。ちかち、船から送られてきたGPS信号の痕跡から考えると、そこへ向かったとしか思えないんでち」
「……あの、だったら」
ここでトヲルが、おずおずと口を開いた。
「行き先が分かってるんだったら、探すのは簡単じゃないんですか?」
「そりゃそうだ。そのへん、どうなんだよ?」
珍しくトヲルの意見に同意するコウヅキ。
「確かに地球へ到着していたなら、簡単な話でちたけど」
「! まさか。まだ着いていないってのか!? ここから地球までは、二十日もありゃ行ける距離じゃねぇのかよ?」
「勿論かなり前に地球管理局には、入出港時における船を照合してもらうよう連絡済みでちよ。ちかち今現在において何の連絡もないということは、まだ到着してはいないということでちね。でちから、地球以外の星へ逃げたという可能性もあるんでち。
一応、他の航路にあたる周辺の星にも手配はちてるでちけど……ここから地球も含め、圏外との交信には圏内よりも時間が掛かるでちからね」
今は各管理局の連絡待ちだ、と船長は言った。
(何で父さんと母さんは、地球へ……?)
トヲルの父親は情報管理局の社員で、ごく普通のサラリーマン。母親は大学病院の看護師をしていた。
そんな一般の二人が、守人しかいない地球に用があるとは到底思えない。しかも入出港時のチェックが厳しい上に、逃亡までして行くような場所でもないのだ。
そんなリスクを背負ってまで、何故地球へ行こうとしていたのか。
トヲルにも分からなかった。
例え地球以外へ逃げたとしても、その理由さえも全く心当たりがない。
「じゃあ、なんでワープ圏外へ逃げる前に止めることができなかったんだ? そこで見つけてりゃ、もっと簡単に捕まえることができただろうがよ」
「タスクが盗んだ船はゴードン商会所有で、それも旧式のものだったらしいでちから。だからワープ着地地点を割り出すのに、通常よりも時間が掛かったんでちよ。
もう少し早く気付いていれば、或いは圏外へ逃げられる前に阻止できたかもしれないでちけどね」
「! そう……か」
船長のその言葉を聞いたコウヅキは、急に目線を下へ落とした。
「そうか、あの時……あの時にオヤジの話を、もっとよく聞いていれば……」
眉間に皺を寄せ、何やら呟いている。
「コウヅキのせいで話が逸れてしまったでちから、続きを言うでち」
船長はそんなコウヅキを尻目に、淡々と話を先に進めた。




