第21話 両親の行方
「……は?」
最初に声を発したのは、トヲルだった。
「あの……そこは何処の星、ですか?」
トヲルの知っている範囲内では、見たこともない惑星である。少なくとも、この近辺の星ではない。
「ワープ圏外にある、名も無き惑星でち」
「ワープ圏外!?」
現在、人間が宇宙旅行を安心して楽しめるのはワープ圏内を移動しているからだった。
ワープ圏内とは人間が独自に設けている規約で、安全区域指定範囲のことである。人間が移住した六つの惑星全てが、そこに入っていた。
それ以外の外宇宙は、注意区域に指定されていた。何故なら、それを越えるとどのような危険が起こるのか、これは現在の科学でも予測不可能であったからだ。
もっとも、立ち入り禁止区域、というわけではない。確かに一部そのような場所もあるのだが、ワープ圏外とはいえ大半はあくまでも、人間が安全保障の目安として設けているだけである。
「勿論そこまでの移動は、この船でしゅるでち。とはいえ、危険なことに変わりはないんでちけどね。でもセリシアの腕なら安心していいでちよ」
セリシアはこの船のオペレーターだった。船の航行も、全てセリシアが操作しているのである。
「俺は、嫌だぜ」
コウヅキが突然言い放つ。
「何でつと!?」
「宇宙へ行ったこともないヤツの面倒も、俺に見ろっていうのか?」
勝手に「行ったこともない」と決めつけられたのだが、本当のことなのでトヲルは反論できない。
「……むぅ」
船長は、クルリと椅子ごと後ろを向いた。この椅子は宙に浮いており、船長はいつも意のままに動かしている。
「わたちの気持ちとしては……本当はミレイユに手伝ってほしいところなんでちが……」
「絶っ対っ、ダ・メ・だ!!」
話の途中、速攻で反対したコウヅキに対して、船長は一瞬次の言葉を言い淀む。
「……コウヅキがそう言うだろうと思ったでちからね。それにウチには他に人材もいないでちゅち、仕方なくトヲルに白羽の矢を立てたんでち」
(仕方なく、って……)自分はそういう人間なのか、と、トヲルは思う。
「そういやオヤジ、まだ見つからねぇのかよ。あれから一ヶ月以上は経つぜ」
コウヅキのその問いに反応するかのように、船長が再び前を向いた。
「タスク達の乗った船の探索は、一応セリシアに任せてはいるんでちが……今現在も、それは進行中でちよ。ただ、ワープ圏外にまで探査範囲を広げてるでちから、かなり捜査は難航ちてるでちけどね」
つまりトヲルの両親とタスクの乗った船は、ワープ圏外へ逃亡したということになる。
「但し、タスクが向かった先は大凡の見当が付いてるでちけど」
「! ナニっ!? それを先に言えっ!!」
勢いで船長の胸倉に掴みかかろうとしたのだがそれよりも速く、コウヅキは背後のデスクに叩き付けられてしまった。
まさに、一瞬の出来事だった。
船長の前には立ち塞がるように、エミリーが構えて立っている。
(ああ、そうか。エミリーって、船長のボディガードもしてたんだっけ)
コウヅキを投げ飛ばしても決して崩れることのないその端整な顔立ちを凝視しながら、トヲルはここでようやく思い出す。エミリーはただ無意味に、船長の横に立っているわけではない。
「で、何処へ向かってたんだ?」
コウヅキは強かに打った腰を押さえながら、何事もなかったかのようにゆっくりと起き上がった。
「地球でち」
船長は軽く言った。




