第1話 シャトルを降りて
第1章 仕事
人間が地球を離れ、他惑星へ移住してから数百年。
そこに住む平凡な大学生トヲルの元へ、一人の男が訪ねてくる。
両親の失踪を知らされたトヲルが連れてこられた場所は、ワケありな船員達の乗る宇宙船だった。
「はぁぁぁ……」
シャトルから降り立ったトヲルは辺りにヒトが誰もいないのを目視で確認した後、周囲に聞こえるくらいの大きな、かなり深い溜息を一つ吐いた。
おもむろに左手首にしている腕輪の一部分を、右手人差し指で軽く触れる。同時に腕輪上面の何もない空間から、薄緑色の淡い光を放つホログラムが浮き出てきた。
「あー、六時七分。もうこんな時間かぁ」
モニター画面に表示された数字を見ながらまた深々と溜息を吐き、独りごちる。
ステーションを出たトヲルはもう一度腕輪に触れてモニターのスイッチを切ると、大きめのショルダーバッグを改めて肩にかけ直し、重い足取りで自宅へ向かった。
駅前はこの町の中心市街地なのだが早朝ということもあり、商店街は殆ど人影がなく閑散としていた。
自動清掃ロボ、通称『ソウ太くん』が目の前を数台行き交い、時折落ちているゴミを拾っているくらいである。
ここ、ジャパトウ・シティのあるドーム内一帯は、もう空が白み始めていた。
人類が太陽系から飛び出し、他の惑星へ移住してから約数百年が経過した。
人々は六つの惑星へ散ると、更に地上では幾つかのドームも建造し、生活をしている。
地球汚染が深刻化してしまい、人類がこれ以上の悪化を食い止めるためにも地球を出ざるを得なかったわけだが、他に人類の住める惑星などなかった。そのため、地上をドーム型の屋根で覆い、その中で人間が生活できる環境を整えているのである。
例えば酸素供給等は勿論のこと、太陽と同じ成分で作った物質も空中に打ち上げていた。朝になると、常に打ち上げてある人工太陽を徐々に点灯させてドーム内を照らす。そして夕方には、それをまた少しずつ消灯して暗くする。
このように人間が生きていくため、人工的に地球と同じような環境を造り出しているのである。そしてその慣習は数百年もの間、どのドームでも守られてきたことだった。
勿論、この第三惑星アジャール内の各ドームも例外ではない。
ドームは各々が太いパイプのようなモノで繋がれており、それぞれが行き来出来るようになっていた。
トヲルも先程までは大学のある、リバーズ・カレッジ・シティ周辺のドームにいた。
ゼミ仲間である友人の一人に、珍しく「飲み」に誘われたのである。
実を言うとチューハイを少ししか飲めないので、本当はあまり気が進まなかった。それに卒業論文用の資料整理作業も残っている。
とはいえ自宅に帰っても両親は二週間前から旅行に出掛けていて留守だったし、たまには気晴らしも必要な気がしていたので、軽い気持ちで誘いに乗ることにしたのだ。
結果、居酒屋でその友人に延々と失恋愚痴話を聞かされる羽目になった。
その後更に夜中三時過ぎまで一人、カラオケボックスで泣きながら歌っていた。四時頃になると店の中で泥酔状態になり、マイクを握ったままで爆睡してしまったのだが、生来断れない性格のトヲルは結局独り、素面のまま最後まで付き合ったのである。
それに友人一人を店にそのまま放置しておけなかったので、無理矢理叩き起こして自宅に送り届ける……という快挙までやってのけた。勿論カラオケボックス料も、ちゃんとトヲルが支払ったのである。
それでやっと帰宅できたのがこの時間、という訳だった。
幸いにも友人宅は大学周辺にあったので、思ったよりも苦労はしなかったのだが。しかしトヲル自身はというと、肉体的にも精神的にもかなり疲れていた。
家の玄関を入ってすぐの、居間にあるソファーに即傾れ込んで泥のように眠りに入ったのは、言うまでもない。




