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うさぴょん号発進せよ  作者: 鈴代まお
第1章 仕事
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第18話 拘束

「拘束、って?」

 トヲルは半ば、呆然として訊き返した。


「うむ。ちょれが上からの命令なんでち」

「『上』っていうとあの……『ゴードングループ』って、ことですか?」

「もちろん、ちょうでち」

「じゃあこの船って、やっぱりゴードン商会の船なんですか?」

 最初にコウヅキが「ゴードン商会の者だ」と名乗っていたことを思い出した。しかし商会の仕事をしているようには見えなかったので、まだ半信半疑だったのである。


「確かにこの船は一応『ゴードン商会』に属してはいるでちけど……」

 何故か船長は奥歯に物が挟まったかのような、歯切れの悪い答え方をした。

「要するに『ゴードンのためだけ』に、『強制労働』をさせられているような連中が集まった船なのさ」

 代わりにコウヅキが答える。


「コウヅキ……そんなストレートに、ミもフタもないようなことを言うもんじゃないでち」

「だって本当のことだろ? ここの連中は皆ゴードンローンに多額の、億単位の借金をしているような奴らばかりが集められているわけだしさ」

「まあ、確かに」ここで船長は、また一つ咳払いをし、

「わたち達は皆、ゴードンローンに多額の借金を抱えている者達でち。

ちかち、『強制労働』というのは間違いでち。

わたち達はきちんとゴードンへの奉仕時間を、借金返済のために費やちているでちから」


 つまりはゴードンに命令されるままに働くことで、借金を返済しているということなのだろうか。だがそれが億単位ともなると、一体どれ程働けば完済できるのか。かなり気の遠くなるような話である。


 トヲルは後で知ったのだが、この船の元の持ち主は船長だったらしい。

 だが船長も借金のために泣く泣く担保へ出し、結果ゴードンに渡してしまったようである。そしてその持ち主となったゴードン商会の社長が、会社を経営する傍らでこの船も運営している、ということであった。


「おっと、そうだった。忘れていた」

 コウヅキがそう言いながら船長の前にやって来ると、目の前のデスクに小さなカードを置いた。

「前から指示されてたヤツ、やっと取り戻してきたぜ」

 よく見ると、フィートから取り戻してきたメモリーカードである。


「うむ。確かに預かったでち。……エミリー」

 船長がカードを手に取り、そのまま横にいたメイド人形の前に突き出した。


「ハイ、船長」

 人形が突然動き出し、喋った。

 これも後で知ったことだったが、それは人形ではなくヒト型のアンドロイドだという。

 アンドロイド自体もさほど珍しいモノではなかったが、トヲルはここまで人間に近い型のものを見るのは初めてだった。


「これを保管庫に仕舞ってくるでち」

「了解シマシタ」

 エミリーはそれを受け取ると、二足歩行型にしてはかなりスムーズな動きで歩き、階段を下りていった。


 船長はそれを見送った後、

「ええと、どこまで話たんでちたっけ……そうそう、君を拘束ちゅる話でちたね。この命令は正確に言うとゴードングループ全体ではなくて、ゴードン商会の社長から出ちゃれたものでち。とはいえ、君にも選択権はあるでちよ」

「選択権?」


「一つめはちゃっきも言ったように、君を担保の一部としてこの船に拘束ちゅること。

ちょちてもう一つは、君が今現在通っている大学を辞めて就職先を見つけ働くこと。ちゅまりは君自身が働いて、借金を返すっていうことでちね。

但し、ゴードンの監視下には置かれることになるでちが。勿論そこから逃げたらこの星の法により、逃亡罪になってちまうでちけどね」

「えっ!? じゃあ、ウチの両親も逃亡罪ってこと?」

 トヲルはこの法律を知らなかったので、驚いて訊き返した。船長は宥めるように、更に続けて言った。


「まあ、話は最後まで聞くでちよ。

……ひとつ言い忘れていたでちが、ゴードン商会の社長は、ゴードンローンも経営ちてるでち。

ちょれにウチの社員もこの逃亡には関わっているわけでちから、もち見つかったときに情状酌量の余地有りと判断しゅるならば、多少は大目に見てくれると社長も言ってくれているでち。だからこちらでも、独自に捜索ちている最中なんでち」

「な、なんだ~」

 トヲルはこの話を聞いて、少し安心した。

「本当にあの社長がその約束を守るのであれば、だけどな」

 コウヅキが意地悪くそう言ってきたが、トヲルは聞こえないフリをした。


「ちかち前者の場合のこの命令は君のご両親が帰ってくるまで、という話でち。ちょれまでは君が債務者になっているでちからね。勿論、君のご両親が帰ってきたら解放ちてあげるでちけど」

 どちらにせよ多額の借金を支払わなくてはならないことに、変わりはなかったのだが。

 トヲルの答えは決まっていた。


 どちらが良いかと問われれば、やはり前者に決まっている。

 あと少しで大学も卒業だったし、拘束されるのも両親が帰ってくるまでの期間限定である。その後のことは両親と相談し、三人で力を合わせればなんとかなると、トヲルは思っていた。

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