表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うさぴょん号発進せよ  作者: 鈴代まお
第1章 仕事
17/85

第16話 理由

 例え今まで椅子の大きな背もたれに隠れて見えていなかったとはいえ、そこにヒトが居たことに全く気が付かなかった。

 トヲルがそこへ現れた者に対して驚いていると、その二~三歳程に見える赤ん坊はいきなり椅子の上に立ち上がり、身体の後ろで両手を組みながら口を開いた。


「わたちが、この船の船長をやっている者でち」

 鈴を転がしたような、可愛らしい声だった。言葉遣いも舌足らずで、明らかに幼児言葉である。


 トヲルはこの状況に困惑していた。思わずコウヅキの方を見る。が、助け船を出したのは、コウヅキではなかった。

「船長は人間じゃなくて、異星人なんだよ」

「あ! ああー、そっか」


 何故直ぐに気が付かなかったのだろうか。それならば説明は付く。

 他星との交流が盛んな現在では、大多数の星との交流がある。当然トヲルの知らない惑星種族がいたとしても、何等不思議ではないのだ。


「ちゃあ早く、コウヅキ。ぐじゅぐじゅしてないで、こちらへ連れて来なちゃい」

 船長の口調は明らかに怒っている様子だったが、しかしそれは赤ん坊が駄々をこねているようにしか聞こえなかった。

 コウヅキは軽く舌打ちすると、トヲルに顎で船長の元へ行くよう指示した。

 促されるままに、トヲルは船長の目の前に移動した。


「あー、君がトヲル・藤崎君でちね」

「は、はい」

「わたちはこの船の船長の『アロクレア・テリスェワクミア・キヌノ』という者でち」

「アロク……? ……キヌノ?」

 一回聞いただけでは、覚えづらい名前である。


「まあ、人間には発音ちにくい名前かもちれないでちから、無理に覚えなくていいでちよ」

「は、はあ……」

「ちょれより」と船長は続けて、また咳払いをした。


「何故君がこの船に呼ばれたのか、という理由を、コウヅキの方から聞いているとは思うでちが……」

「あっ、あのっ」

 トヲルは慌てて口を挟んだ。

「僕の両親が借金を残したまま失踪したってことは聞いてるんですけど、何で僕がここに連れてこられたのか、とかは、船長に訊けば分かるって聞いたんですけど」

「なんでちって!? ……コウヅキ!」

 トヲルより一歩後ろにいたコウヅキを、船長は迫力のないその目で睨み付けた。


「ちゃんと説明ちてから連れてきなちゃいと、言ったじゃないでちか!」

「そんなのメンドくせぇよ。そういうのは、いつもオヤジの役目だったしさ」

 後ろのデスクに寄り掛かり、ジーンズのポケットに手を突っ込んだまま、目を逸らしてふて腐れたように言った。

「全く、使えない人間でちね」船長はブツブツと文句を言っている。

 だが直ぐに気を取り直したのか、再びトヲルに向き直った。


「しょれでは、最初から説明するでち。

……君のご両親がウチの社員と逃亡ちたんでち。で、今現在もしょの行方を追ってるでち。

ご両親が保証人だったことは、知ってるでちか?」

「あ、はい。それは……」

「うむ。ちょの借金を作った張本人でちが、しょちらも既に逃亡ちてて現在も行方知れずになってるでち。だから保証人だった君のご両親に、代わりに支払ってもらうことになっていたんでちが……」


 ここで船長は、一旦言葉を切った。

「ちょちらも逃亡したとなると、借金を支払う権利は自然とちょの子供に掛かってくるんでち。この星の法律ではちょうなってるでち。但し未成年には、しょの権利はないでちけどね。人間の成人年齢だと十八歳以上でち。……確か君の年齢は?」

「二十一です」


「うむ。ちょうちゅると、やはり君に権利が移ることになるでち。ちかち君はまだ学生でちから、返済能力は皆無でち。

一応、君の現在住んでいる家などの不動産も担保に入ることにはなるでちが、ちょれだけでは全額を返済することは不可能なんでち。でも借金の額が額でちから、こちらとしても払ってもらわないと困るでち」

「はあ」

「というわけで君も『担保の一部』という形で、差し押さえられることになるんでち」


 一瞬の間が開く。トヲルは途中から船長が何を言おうとしているのかが解らず、戸惑っていた。

「え……あの、それってどういう?」


「即ち今日からこの船が、君を拘束することになったでち」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ