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うさぴょん号発進せよ  作者: 鈴代まお
第1章 仕事
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第12話 機密データ

「おっ、あった。多分これだな」

 程なくして突然コウヅキがバッグの中から、何かを取り出してきた。

 見ると陶器製の兎の形をした、小さな置物である。ピンク色の兎が人参を三本抱えた絵柄の、特に変わったところのないごく普通の置物だった。


「これが、何だってんだ?」

 座っているコウヅキの肩に腕を置いたフィートが、近付いてそれをしげしげと見詰める。

「まあ見てな。……おい、ナイフ貸してくれ」

 そう言うとコウヅキは、トヲルの目の前に手を出した。トヲルは一瞬躊躇いを見せたが、言われた通りに先程また拾ったナイフをポケットから取り出す。


 コウヅキは刃を閉じたままでナイフの柄の部分を下に握ると、いきなり手に持っている置物を叩き壊し始めた。中が空洞になっていたため、二、三回叩いただけですぐにそれは破壊された。


「ちょっ、コウヅキ!? 俺の『戦利品』になんてことしやがるんだっ!」

 フィートが血相を変えて割れた置物に駆け寄ってきた。多少、涙目になっているような気さえする。


「俺はこの中のモノに用があるんだ。それにどうせそれほど価値のある代物じゃねぇんだし、別に無くなったっていいじゃねぇか」

「そんな問題じゃ……て、ぁああー?」

 破片を名残惜しそうに手に取って見ていたフィートが、突然大声を上げた。


「コウヅキっ! よく見たら底の方に蓋が付いてるじゃねぇか! てめー俺への嫌がらせで、ワザと壊しやがっただろ!?」

「フッ、よく気が付いたな。だが俺を『犬』呼ばわりする、お前のほうが悪いんだぜ」

 フィートに詰め寄られても全く悪びれる様子もなく、涼しい顔をして平然と言い放った。

(なんて低レベルな……)心底トヲルは呆れ返る。


「よし。これで任務は完了だぜ」

 コウヅキは破片の中から僅か三センチ程の小さな薄いカードのようなものを取り出すと、自分の胸ポケットから煙草ケースを出し、煙草と一緒にそれを仕舞い込んだ。


「それって一体何なんだ? ゴードンと何の関係があるんだよ。しかも何で俺が盗んだって分かったんだ? それくらいは説明してくれもいいだろ!?」

 先程の仕打ちもあってか、フィートの声はかなり不機嫌そうだった。


「まあ、そうだな。……しかし本当は俺にだって一応『守秘義務』っつぅもんがあるわけだから、あんまり詳しいことは言えないんだが」

 コウヅキは一応前置きをしてから、

「要は『盗まれた関連会社の機密データを取り戻せ』と、上からお達しが出たってことさ」


「つまり、さっきのカードが機密データってことか?」

「重要な書類なんかはマシンの中に直接入れたままにしたり、ネットでデータを遣り取りしたりするよりは、媒体通してやったほうが安全性は高いらしいからな」

 マシンの中だとそのまま盗まれ、ネットだとハッキングの危険性もあるらしい。トヲルもそのようなことを、何処かで聞いたことがあった。


「でも、なんだってあの中に入ってたんだ? 確かアレ、セキュリティが少し強化されてただけの、ごく一般的な普通の家にあったんだぜ。しかもあの置物は他の似たような物と一緒に棚に飾ってあった代物で、特別厳重に保管されてたわけでもなかったし」

「そりゃ、『木の葉を隠すなら森の中』ってよく言うだろ。たぶんそれと同じ発想なんじゃねぇのか? 大体あんなモンを盗む奴がいるなんて、誰にも予想できねぇしな」


 ここでコウヅキは意味ありげな目線をフィートに送った。フィートはそれに気づき、かなり脹れた。

「何でそれが俺だと?」

「ゴードンの情報網を甘く見るなよ。お前を割り出すくらい雑作もないぜ。ただ、今現在何処に居るかまでは掴めなかったようだがな。いつも高価な物を盗むわけじゃねぇから、殆どの被害者は被害届を出してこないし」

(確かに……)

 盗まれたのがあまり高価な物ではなかったら、トヲルでも被害届を出すのは少し躊躇うだろう。


「お前が俺から逃げ回っている上に女の家を転々としてヒモ生活を送ってるから、居住が定まらなくて俺も探し当てるのに苦労したぜ。仲間に頼んで、やっとここを見つけたんだからな」

「それじゃ、盗んだ俺を捕まえるのか?」

「まさか。さっきも言ったように、俺はデータを持って行くだけさ。それにあの会社はお前みたいなコソ泥、相手にしてねぇし。あっちもデータさえ取り戻せれば、それでいいみたいだからな」

「もっとも……」と続けて言ったコウヅキの目が、一瞬光ったような気がした。


「お前があのデータを目当てにして盗んだ、ってんなら話は別だけどな」

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