プロローグ
少女は独りで寂しかった。
唯一の楽しみは、父親が時々会いに来てくれることだけ。
来る度に頭を撫でてくれる、そんな父親のことが大好きだった。
父親の他に数人ほどガラスの向こうから交代で少女に接してきたが、部屋に入ってくることはなかった。
少女は『友達』も欲しがるようになった。部屋に置いてある、絵本の中に出てきたものが欲しくなったのだ。
父親は少女が強請る物なら何でも買ってくれた。
すぐに『友達』は少女の願い通りに部屋に入ってきた。
だが少女はソレを、すぐに壊してしまった。
その後父親が数回『友達』を連れてきたのだが、その度に壊してしまう。
やがて少女は『友達』が壊れても、一緒に遊べることに気が付いた。
少女はいつものように『友達』を壊し、初めて楽しく遊ぼうとした。が、それを見ていたガラス越しのヒト達は、突然ソレを少女の手から取り上げてしまった。
欲しかったものを取られた少女は感情のままに怒り泣き叫んでみたが、ガラス越しのヒト達はそれに答えようとしなかった。
少女の中に初めて『憎悪』が芽生えた。
少女は『友達』を取り戻したかったが、この部屋からはどう足掻いてみても出ることができなかった。
しかし少女の願いは簡単に叶う。
部屋全体が突然暗くなり、今までしていた機械音がピタッと止んだのである。
それはほんの数秒間の後に、また再び動き出した。
だがその時には既に、部屋の中から少女の姿が消えた後だった。
「あたし……、一体どうしたのかしら?」
女は首を振りながら床からゆっくりと起き上がった。
起き上がり、女は思い出そうとした。
確か自分は今週、このモニタールームの監視当番だったはずだ。
そのことをようやく思い出した女は、周囲にあるモニターのチェックを再開した。
(そうだ。確かその後……)
大きな揺れに見舞われ、気が付いたら床に倒れていたのである。
だが。
(おかしいわね)
女は作業をしながら、疑問に思った。
(この場所で地震なんか起こるはずないのに。自然災害がないから、ここに研究所を建てたんじゃなかったのかしら?)
しかし直ぐにその疑問は吹き飛んだ。
「え!? ……ちょっ、嘘でしょ!?」
突然女は驚いて立ち上がり、モニターの一つを凝視した。
「ありえないわ、こんなの。なんでいないの!?」
それは、ある部屋の中を映している監視モニターだった。だが誰もいない。
「ここから一体どうやって逃げたっていうの!? ちゃんと強力な結界装置が作動しているはずなのに!」
女は焦りながら、モニターを切り替え続けた。しかし女の探し求めている人影は、何処を映しても見当たらなかった。
このままでは監視当番をしている自分の責任が問われるのは、間違いない。
「ねえ、それって、面白い?」
背後から少女の声が聞こえてきた。
それはこの部屋で聞こえてくるはずのない声。
女が探していた声だった。




