ープロローグー いつか見た景色
「へえ、人間はとてもいいですね!嬉しいときには喜ぶことが、悲しいときには泣くことができるんです。感情がない機械とは大違いです」
部屋の中で二人の男が何やら人間について話している。
その男はまるで自慢をするように人間について語る。
──人間は素晴らしいものだ、と。
しかしその男の頭部は人間のものではない、例えるならば分厚い旧型のパソコンのようなものだった。年不相応にはしゃぎながら男は話を続ける
「人間は何だってできるし何にだってなれるんです。だって『心』があるから。機械にはないものを持ってるんです!」
すると今まで話を聞いていたもう一人の男も話し始める。
「…ああ、そうだね。確かに人間は素晴らしいものだよ。でも機械にだって心はあるんだ」
「心が…ですか?」
どういう意味か分からず男が首をひねる。とてもじゃないが機械にも心があるというのは理解ができない。
──だって心がないからかつて大切だったはずの人が死んでしまっても泣くことができなかったのに。
「そう、君にだって心があるんだ。機械も何かのことに喜んで、誰かのために悲しむことができる。人間が機械との向き合い方を忘れてしまっただけで。人間も機械も本当はなにも変わらないんだよ」
「…私に心はありません。人工的に作られた機械なので感情を持てない、人間より遥かに劣った劣化品なんです」
「今はそれでいい。でもね、いつかきっと胸を張って人間だと言えるようになる日が来るはずだ」
「それは───」
そこで何を言おうとしたのか、自分でもわからなくなる。だが、どうしても黙っておくことはできなかった。そこで黙ってしまうともう二度と目の前の男と話をすることができなくなる気がして、
「ごめんね、そろそろ行かなきゃみたいだ。」
男から突然の別れが告げられる。いや、突然ではなかった。前々から告げられていた、分かっていたことだった。彼は椅子から立ち上がり、ドアの方へと歩いていく。そして彼はふと振り返ると口を開く。
「──『トロイ』…君はいつだって僕の自慢の息子だ、ただ自信を持って生きればいい。それだけで、いいんだ」
「待って…父様!」
自分を渦巻く気持ちをうまく言葉にすることができず、訳もわからず呼び止める。
すると『父様』と呼ばれた男は困ったように微笑んで───
「───ごめんね、大好きだよトロイ」
そう言って彼は家を出ていった。