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[62]


 ソコロフは、小銃射撃でバザロフを牽制しつつ、ゆっくりと聖少女が立つ舞台の方へ向けて前進を開始する。

 と……

 バザロフが、両の太もものレッグホルスターからマカロフ自動拳銃を抜いた。

 両の拳銃を撃ちつつ、後退していくバザロフ。

 やはり、いつでも連射ができる訳ではないらしい。


オペレーター(ジェーブシカ)……』


 あとどれくらい掛かりそうだい?


『五分……いえ、三分でなんとかしてみせますっ!』


(よしっ!)


『了解、オペレーター(ジェーブシカ)


 ソコロフは、機械化女中(スルージャンカ)の構える防弾盾の上に身を乗り出すと猛烈な勢いで後退していくバザロフへ小銃弾を叩き込む。

 と、同時に――


「走るぞっ!」


 五体の機械化女中(スルージャンカ)を正面に二機、左右と背後に各一機のフォーメーションで聖少女へとまっしぐらに突っ込んでいく。

 轟く聖少女の量子転送兵器。

 ソコロフの脇を掠めていった攻撃は、おそらくバザロフへ向けたものだろう。

 あれでヤツが死んでくれれば御の字だが、果たしてどうか……。

 間断なく発砲しながら、広場に転がる警備用ドローンや瓦礫を盾にして距離を稼ぐ。

 そして――ソコロフは、歩みを緩めると、舞台から十メートルほど離れた崩壊した電材市場の瓦礫、その大きな鉄骨の骨組みの陰に身を潜めた。

 無論、聖少女がソコロフに気が付いていない筈がない。

 それどころか、彼女を援護する日本兵の攻撃が機械化女中(スルージャンカ)の防弾盾を抉らんばかりに猛烈な勢いで降り注ぎ、鉄骨やトタン板の上で大きな音を立てて爆ぜ、砕けた破片や跳弾した銃弾が周囲に乱れ飛ぶ。

 と――

 前面を守っていた機械化女中(スルージャンカ)の一体が頭部を吹き飛ばされると同時に防弾盾を貫通され、カクンッ、と動きを止めてくず折れた。


対物狙撃銃(アン・マテ)かっ!)


 ソコロフは、件の機械化女中(スルージャンカ)の穴の開いた防弾盾を引き寄せ、体の前に構える。

 明らかに人数が増えたと思しき日本兵。

 それに、徐々に聖少女以外の連中の量子転送兵器も周囲に着弾し始めた。

 と、言う事は……。

 みぞおちの辺りが冷たくなり、ソコロフは思わず拳を握り締める。

 量子無線機のチャンネルを切り替え、ソコロフは呼び掛けた。


『アリムラ少尉――』


 もう一度。


『アリムラ少尉っ! 応答してくれ、アリムラ少尉!』


 さらにチャンネルを切り替えて、


『ターシャ、応答してくれ、ターシャ――ペトロヴァ兵長!』


 応答はなかった。


(…………)


 ソコロフは、防弾盾を体で支えつつ、小銃のマガジンを交換する。

 防弾盾ののぞき窓から見える聖少女は、こちらを見つめたまま動かない。

 否、おそらく量子転送兵器が使用可能になるのを待っているに違いない。

 もし、バザロフが健在だった場合――


(三者とも量子転送兵器の回復待ちか)


 唸りを上げて頭上を飛びすさぶ銃弾。

 日本兵の小銃弾が空を切り、機械化女中(スルージャンカ)の防弾盾の表面で雨音のように激しく爆ぜる。


「――っ!」


 また、一体。

 今度は、左手を守っていた機械化女中(スルージャンカ)が、胴体と頭部を同時に敵の量子転送兵器に撃ち抜かれて「ガシャンッ!」と音を立てて路面に転がった。

 使用された量子転送兵器は、レベル2 オサ―。


(まだか、オペレーター(ジェーブシカ)……)


 ソコロフの汚れた顔を冷たい汗が伝う。

 おそらく、これが聖少女へ向けて有効打を放てる最初で最後のチャンスだ。

 結果が、どうあれここで撃つことが出来なければ、もう打つ手なし。認めたくはないが、作戦は完全な失敗だ。

 それに――


(この様子では、チナツもどうなったことやら……)


 再び、大きな振動。

 背後の建物に量子転送兵器が着弾したようだ。

 聖少女のもの――


(じゃないな。まだだ……)


 降り注ぐ銃弾の量がさらに増える。

 軽量アルミ鉄骨の骨組みから火花が散って、ソコロフの背広の肩を焦がし、「カンッ!」「コンッ、キンッ!」という甲高い音と共にソコロフの周囲を鼎のフォーメーションで守っている機械化女中(スルージャンカ)の防弾盾の表面を跳弾した曳光弾が階層の真っ暗な天井へと吸い込まれていく。

 もう、機械化女中(スルージャンカ)たちもいくらも持ち堪えられない。


(まだか……オペレーター(ジェーブシカ)……っ!)


 その時だった。


『お待たせしました、同志中尉! 「ラトニク」稼働しますっ!』


『了解っ! 頼む、オペレーター(ジェーブシカ)!』


 ラトニクが起動すると同時にソコロフの前面に赤い十字線が投射され、空間が青く揺らぎ始める。


『転送しますっ! レベル――』




 喝――

 



 その瞬間は一瞬だった。

 時間も空間も圧縮され、全てがコンマ一秒以下の刹那の瞬間。

 目の前の事を何も認識することもできず、聞こえず、見えず、理解できず。

 ただ、その瞬間が体全体にぶち当たるようにしてソコロフに襲い掛かった。

 その瞬間、遠くの方で叫ぶオペレーター(ジェーブシカ)の声が微かに聞こえた。


『――同志中尉っ!』


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