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『オペレーターッ!』
砲口の熱を宙に残したまま、揺らぎと共に消えていく量子転送兵器。
『申し訳ありません、同志中尉! システムに掛かる負荷が限界です!』
次弾発射まで――
『十分ほどお時間を下さいっ!』
激しくキーボードを叩く音や周囲のサブオペレーターや指揮官との緊迫したやり取りがソコロフの耳にもイヤホン越しにはっきりと聞こえて来る。
委員会戦闘本部もまさに戦闘の只中にあった。
それに――
(彼女だからこそ、次弾の発射までの時間が十分で済んでいる)
おそらく、これまで組んだオペレーターの中で最も能力の高い彼女。その彼女を持ってしても『ラトニク』の大元の性能以上の酷使には、やはり大きな無理が伴う。
修理するまで待ってくれ、と言われていないだけ御の字だろう。
いや、上々と言っていい。
『ありがとう、オペレーター』
となれば――
(それまで、こっちでなんとかするしかないか)
残弾二十八発
拳銃は、もうすでに弾薬が心許ない。
無理を知りつつ、
『ソーニャ……』
呼び掛けてみると、少ししてから、
『ふんぎぎぎ……何でしょうか……ソコロフさんっ!』
空中投影されたブラウザの中、彼女より少し年下と思しき振袖姿の日本人の少女とがっちりと互いの両の掌を掴み合いながら歯噛みするソーニャが現れた。
『うんぎぃぃ……っ! しぶとい……おすなぁ!! とっとと、観念して……おくれやすぅ!』
『あなた……こそ……降参してくださいっ!!』
『ぶ・ぶ・づ・け・ど・う・ど・す・かぁぁぁぁぁ!!!!』
『ヤ・ツ・ハ・シ・し・か・食・べ・ませーーんっ!!!!』
うんがァーっ!!!!
ふんぎィーっ!!!!
可愛らしい少女同士があられもない声を出しながら取っ組み合いの真っ最中なのであった。
ソーニャの相手は、日本の第八世代量子頭脳。
実力は伯仲。
ソコロフは、周囲の戦場騒音、特に聖少女の動向に耳をすませつつ、手短に現状を彼女へ伝えると、
『残りの機械化女中を、全自動にしてこっちに回してほしい』
後は――
『こっちでなんとかする』
大丈夫そうかい?
ソコロフの問いかけにソーニャは、相変わらずがっぷりと四つに組んだままにっこりと微笑んだ。
『喜んで!』
『よそ見してる場合やおまへんえっ!!』
うんがァぁぁぁぁっ!!!!!
『ソコロフさんっ! 残りの機械化女中を全てそちらへ向かわせました! 後を――』
「了解した。ソーニャ、君も――」
『お任せくださいっ!』
わたしは――
『第八世代量子頭脳「スリーピング・ビューティー」』
ソコロフさんの希望に百二十パーセントお応えする――
『あなたのソーニャですっ!!』
ふんぎィぃぃぃぃぃーっ!!!!!
『ありがとう、ソーニャっ!』
通信を切るなり、ソコロフの前に滑り出て来た五体の機械化女中。
ソコロフは、身をかがめつつ、ゆっくりと前に――
「くぅっ!」
機械化女中が、一斉に防弾盾を構え、数メートル先の路面を穿った量子転送兵器の攻撃をなんとか躱す。巻き上げられた瓦礫と横たわる無数の日本兵や一般市民の死体。
日本兵の死体から状態のよさそうな小銃を拾い上げ、マガジンを確認し槓桿を引くと弾の装填される小気味の良い音が響いた。
さらにタクティカルベストをまさぐって予備のマガジンも何本か手に入れる。
さて、あとは……。
呼吸を図って――
(三……二……一……)
機械化女中の構えた防弾盾越しに短く連射。
足元に爆ぜた銃弾にバザロフの構えた量子転送兵器の砲口が微かにそれて、明後日の砲口に火を噴く。
が、それには目もくれず、ソコロフは次いで、聖少女へと銃を向ける。
やはり、二人同時と言うのが厳しい所だろう。
しかも、三人が三人とも互いに協力する気はない、いわゆる三つ巴の状態だ。
(さて、どう攻めたものか――)
防弾盾に食い込む援護の日本兵の小銃弾の音を聞きつつ、ソコロフは周囲に目を凝らす。
崩れ落ちて無残な姿をさらす周囲の建物と撃ち放たれた量子転送兵器に抉られて無数の大きな穴の開いた広場。
その広場の三方に
舞台の上の聖少女、
舞台から向かって左手、西の隅にバザロフ、
その反対側、東の端にソコロフが。
そして、広場の周囲には聖少女を援護する日本兵たち。
前者三人は互いに向けて量子転送兵器を使用中だが、周囲の日本兵の量子転送兵器は、タケオやターシャ、そして、人民内務委員会の隷下の戦闘部隊へと向けられている。
だが、連中の量子転送兵器がソコロフへ向けられるのも時間の問題だろう。
彼らがどれだけ持ちこたえられるか……。
それに、日本軍以上に厄介なのが、連射が出来るバザロフの量子転送兵器だ。
とは言え、
(常に連射ができる、と言う訳では無い筈だ)
そう、人民内務委員会の使用する量子転送兵器も構造はソコロフの使用する量子転送兵器をまったく同じ筈。
で、あるならば――
(システムに掛けられる負荷は、たいして違わない筈)
どうだ……?




