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 うーん……

 目の前に並んだ無数のブラウザ。

 ソーニャは、交響楽団の名指揮者さながらに無数のコマンドを同時に出しては、返ってきたリプライにさらに重ねてコマンドを出し、それと並行して生き残ったセンサーを駆使して周囲の状況を監視する。

 が、正直言って……


「マズイです……」


 ソコロフからもタケオからも悲鳴のような問い合わせや依頼がひっきりなしにやって来る。

 まあ、それ自体は、まだ、なんとかなっているのだが――


「ホー叔父さーーんっ!」


 そう、問題は、数分前から通信が途絶えているホー叔父さんことホー中尉。

 日本軍の通信を傍受している限りでは、無事なようではあるのだが、それなら返事があってもよさそうなもの。生き残っているセンサーだけではやはり追い切れない。


(ホー叔父さん……)


 とは言え――


 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!


 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!


『10101111000011』


『10011010101010』


『11001111001010』


『10100000111001』


 背後にある両開きの扉が外からものすごい勢いで打ち鳴らされる。

 ソーニャの防壁を突破すべくこれまでで最大の攻撃を掛けて来た日本軍の戦術AI。

 先の戦闘の際に得られたプロットを解析して、十分に準備をしておいたのでそこまでの脅威には感じていないのだが――

 だが……


 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!


 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!


 …………

 

 ソーニャは、焦れたようなため息を一つ吐くとドレスの裾をくるりと翻して、その可愛らしい顔に精一杯の怒気を込める。

 いつもは春風のように笑っているソーニャだって、怒る時は怒るのだ。

 まあ、足が少し震えているけれど。


「もう、いい加減にして下さいっ!! お友達でもない女の子のところに毎日、毎日訪ねて来て、ドンドン、ドンドン、って失礼ですよっ!」


 肩を大きく上下させつつそれだけ言うと、ソーニャは「ぷいっ」と踵を返す。


(わ、私だって、言う時は言うんですっ!)


 と――


(…………?)


 突如として、背後が静かになった。


(……ええと?)


 まさか……


(帰っちゃいました?)


 ソーニャは背後を振り返りたいのを堪えつつ、目の前のタスクを片付けていく。

 が……やはりどうにも気になる。

 あんなにしつこかった日本軍の戦術AIなのに……。

 急にどうして。


(???????)


 と、その時だった。

 背後の扉――。

 その部分だけがサーッと一面黒くなったかと思うとその上を無数の緑色に輝く文字列が流れ落ちていく。

 そして――

 それまであった両開きの扉の代わりに現れたのは、一枚の格子戸。

 それが、やおら「ガラガラガラ」と引き開けられ、


「………?」


 入ってきたのは一人の少女。

 年の頃は、ソーニャより少し下の十二、三歳くらいだろうか。

 艶のある黒い髪を結上げ、幼さを残した清楚な顔に薄化粧を施した、鮮やかな赤い振袖を着た女の子だった。

 その女の子が、楚々とした出で立ちで格子戸から入って来ると、ソーニャに向けて上品に頭を下げる。


「……。あの……。えーと……」


 困惑するソーニャにその日本人と思しき可愛らしい少女は、にっこりと微笑んだ。


「ウチの名前は、『みやび』どす」


 あんさんを――


「ブチ殺しに来た日本の第八世代量子頭脳(AI)どす。ほな――」


 よろしゅう……。


「…………」


「…………」


「「……………」」




 ええええええええええええええええええええっ!!!!




 仰天するソーニャをよそに楚々と身構える女の子。


(日本の第八世代量子頭脳(AI)!)


 かつて――

 そう、革命前。

 彼らがまだ地上にいた頃、日本は量子頭脳(AI)で世界レベルの技術を持つ国だった。

 そして、その英知の結晶こそが彼女。ソーニャの鉄壁の防壁をやすやすと突破し、涼しい顔をしているこの女の子なのだ。

 はっきりと分かる。

 涼し気に揺れる彼女の瞳からひしひしと伝わって来る自信。

 相手は、やはり只者ではない。

 ソーニャは、大きく息を一つ吸い込むと女の子の黒い瞳を見つめてゆっくりと身構えた。


(少しお時間を頂きます、ソコロフさん)


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