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「なんてこった……」
舌打ちしながら、空になったマガジンをリリース。
新たなマガジンを差し込み、再び撃ち始めたタケオこと、アリムラ少尉の顔に焦りの色が浮かぶ。
隣で拳銃を撃っていたターシャとチナツも死んでいた日本兵の小銃を拾って撃ち返しているが、残弾はもうそれぞれマガジン一、二本ずつしかない。
足元に転がった大量の空薬莢。
ターシャのマカロフもすでに弾切れであり、チナツのコルトパイソンはそもそも弾倉に入っていた六発こっきり。
敵である日本兵は、聖少女たちの戦闘を器用に避けつつ、タケオたちを巧みに追い詰めていた。
そろそろか……。
タケオは、小銃のスリングを肩に掛けると量子無線へ叫ぶ。
『オペレーターっ!』
『了解。転送します』
ベテランらしい落ち着き払ったオペレーター六一七六五七八八の声が響くと同時に空間が青く揺らめいて、目の前に赤い十字線が表示される。
コンマ一秒以下の操作で敵に照準が定まるやタケオが叫ぶ。
「発射っ!」
豪っ――
砲口が「カッ!」と鋭く煌めくと同時にバックブラストが背中の量子タービンを揺らす。
レベル2 ストレラ
発射された高出力エネルギー体の矢が日本兵たちへ殺到するや、対する日本兵もすかさず、量子転送兵器で撃ち返してくる。双方とも、あまり使用している量子転送兵器のレベルが高くないためなんとかなっているが、相手の方が人数が多い分当然ながら手数も多い。
敵の量子転送兵器は、二の矢、三の矢と次々に撃ち出してくる。
ついに、敵の攻撃が集中していた右側面を守っていた機械化女中の一体が構えていた防弾盾ごとスクラップにされ、背後の建物にめり込んだ。
「チナツさんっ!」
「このクソッたれどもがァっ!!」
ターシャとチナツが、空いた穴を埋めるべく猛射を浴びせる。
が、
(キリがないっ!)
量子転送兵器の発射速度には、どうしても限度がある。
タケオとターシャで交互に撃っているので、一定のリズムを保ってはいるものの撃てるのは、せいぜい敵の半分以下。
やはり、分が悪いのは否めない。
と――
「ミナサン・ワタシタチ・ノ・カゲニッ!」
残った六体の機械化女中が一斉に防弾盾を構えて一同の前にスクラムを組む。
轟音と閃光――
防弾盾の左右を吹き抜けていく爆風のとどろきを全身で聞きつつ、タケオはターシャとチナツに短く叫ぶ。
「走れっ!」
空になったマガジンをリリースして新たなマガジンをぶち込み、短く連射。
ターシャとチナツを後退させながら機械化女中の防弾盾越しにさらに撃ち返す。
もはや、聖少女をどうにかするどころではない。しかも、始末の悪いことに人民内務員会がこのタイミングで介入して来ている。
まあ、連中からすればまさにベストなタイミングなのであろうが。
(せめて、バザロフはなんとかしたいな……)
とは言え――
飛び交う量子転送兵器と銃弾の中を三人はなんとか広場の端へ、端へと後退していく。
瓦礫と化した町の中。
ソコロフの物と思しき銃声と量子転送兵器の発射音が聖少女の発射する量子転送兵器と噛み合い、二人を同時に屠ろうとしたバザロフの量子転送兵器が火を噴く。
しかし、気になるのが――
(ホー中尉……)
中尉は、射撃の神様と称えられる狙撃兵であるだけでなく、地下世界の事を知り尽くした歴戦のベテランだ。
こんなところでやられてしまうとは思えない。
だが……
そういうまさかの事態が日常的に起こるのが戦場である。
(くそっ!)
再び、マガジンが空になった。
防弾盾を構えながらじりじりと後退する機械化女中の陰に身を隠し、新たなマガジンを取り出すべく肩から斜めに掛けた日本軍の雑嚢の中をまさぐる。
マガジンの残りは、一本。
と――
轟音と共に背後の建物の上部が吹き飛び、大量の瓦礫に背中を押されるようにしてタケオは、路面へと叩きつけられた。
(くそっ……)
唾を吐きつつ、よろよろと立ち上がり、防弾盾を構えて辛うじて踏みとどまった機械化女中の背後から――
銃を構えて、はたとタケオは気が付いた。
「チナツ……ターシャ……?」
振り返った先には、倒壊した建物が。
(まさか――)




