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(まったく、民生委員ってヤツは――)
――なんと素敵な商売な事かっ!!
ソコロフは、ドアを蹴り破るようにして開けると、
「あっ!」
目が合った日本兵に両の手に握り締めた自動拳銃、M1911『コルト・ガバメント』の四十五口径弾を数発叩き込み、さらにその先の給水塔の上にいたヤツも撃ち落とす。
とにかく、時間がない。
と――
目の前で猛烈な閃光が弾け、ソコロフが今いる電材市場屋上から距離にしてわずか二百メートルほど先、舞台の正面に面した建物が轟音と共に消し飛んだ。
「なんてこった!」
猛烈な爆風。
爆圧で巻き上げられた破片が階層の天井に当たって跳ね返り、頭上から雨あられと降って来る。
「くそっ!」
顔を振って降り掛かる破片やほこりを払い落しつつ、拳銃の照準を体の正面に固定して、ひたすらに屋上の上を走る。
そして――
二時方向。
十一時方向。
九時方向――。
目についた敵へ向けすかさずトリガーを引き、敵がくず折れるのには目もくれず、ひたすらに先へ、先へ。
リリースされたマガジンが足元で跳ねる。
その時、ソコロフの骨伝導イヤホンにホー中尉の声が響いた。
『同志少佐、四時方向でさぁ!』
――四時方向!
ソコロフは、振り向きざまにほぼカンで四時方向へ弾をぶち込む。
空になったマガジンが床に跳ね返ったその刹那、三人の日本兵が床に転がった。
『助かったよ、ホー中尉』
『いえいえ、同志少佐殿も相変わらず見事なもんでさぁ。あ、あと、ウロチョロしてたマフィアと日本軍の狙撃手を何人か殺っときましたよ』
相変わらず、仕事のできる部下である。
ホー中尉に頭をぶち抜かれた連中が中尉の事を知っていたかどうかは定かではないが、運が悪かったと言う他ない。
だが、それにしても――
舞台の上の聖少女。
このセレモニーが罠であったのは、ある程度予想の範疇ではあった。
たが、まさか彼女自身が罠にかかった自分たちを仕留めに来ると誰が想像出来ただろう?
まったく……
(民生委員ってヤツは……)
拳銃に給弾ベストから弾を補充しつつ、ソコロフは先を急ぐ。
(急げ! 急げ!)
広場で防弾盾を構えた機械化女中を盾に小銃と拳銃で抵抗を続けるアリムラ少尉とターシャことペトロヴァ兵長、そして、ヤクザのチナツ。彼らがどれほど優秀でも、量子転送兵器の前ではゾウの前のアリ以上に無力な存在でしかない。
すでに、聖少女の構えた量子転送兵器の銃口は彼らに向いている。
広場まであと少し――
と、聖少女の量子転送兵器が火を噴いた。
『ソコロフさん! ターシャさんたちが!』
「なんとか、照準をそらし続けてくれ、あと十秒――」
電材市場の屋根がようやく終わり、ソコロフは電材市場の隣の建物の屋根の上に飛び降りるや、すかさず量子無線のチャンネルを切り替え叫ぶ。
『オペレーターッ!』
『転送しますっ!』
舞台の上に立つ聖少女の横顔に向けて、赤く輝く十字のホログラム照準器が浮かび上がり、同時にソコロフの手にのしかかる様にして空間が青く揺らぎ始める。
オペレーターの少女が叫ぶ。
『量子転送 レベル4――』
――プロメテーイ!!
が――
ソコロフが、トリガーを引いた瞬間だった。
目の前が真っ白になり、自身の量子転送兵器の反動と同時に足元が揺らぎ、
(――なっ!)
コマ送り再生の動画のように世界が回転する。
轟音と共にトタンと軽量鉄骨でできた電材市場は崩れ落ち、気が付けば量子転送兵器「プロメテーイ」は緊急停止して、ソコロフ自身は瓦礫を全身に浴びて地べたにキスしていた。
…………。
「くそっ……」
ソコロフは痛む頭を左右に振って瓦礫の間から抜け出すと、なんとか立ち上がってレッグホルスターの両の拳銃を抜き、自身へ向けて量子転送兵器を放った第三の人物へ向ける。
『同志少佐!! ご無事ですかぃ?』
『ソコロフさんっ!!』
『同志少佐!!』
問いかけて来たホー中尉とソーニャ、そしてタケオにソコロフは叫んだ。
『タケオ! ターシャとチナツを連れて一端引け!』
やれやれ……
ソコロフの口から舌打ちが漏れる。
こういうタイミングは、まったく絶妙と言う他ない。
五十メートルほど先に佇むその男にソコロフは、うんざりとした面持ちで頷いた。
「やぁ……元気そうでなによりだよ、ヴィーチャ」




