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銃声――
と、ともに会場は、一瞬でパニックになった。
が――
(――そんなっ!)
ターシャが、咄嗟に身構える。
演壇に立ったところを狙撃された聖少女。
狙撃したのは、ホー中尉。
狙撃そのものは予定通りだった。
だが……
たまぎる悲鳴と飛び交う怒号。
恐怖に駆られて烏合の衆と化した人々が、我先にと広場の出口へ殺到する。
と――
(チナツさんっ!)
人々の間を縫うように、一足飛びに飛び出した人影が煌めく白刃を手に舞台の上へと殺到する。
同時に、
「ターシャ・サンッ!」
人々の間をすり抜けて現れた錆びだらけの機械化女中が、すれ違いざまにターシャの手に拳銃と予備のマガジンをドロップ。そのまま走り抜けていく機械化女中には目もくれず、ターシャは拳銃のスライドを引くと、
タンッ! タンッ!! タンッ!! タンッ!!
ためらうことなく舞台上の聖少女へ向けて発砲する。
マカロフ自動拳銃
グリップを握りしめた手の中に感じる頼もしい反動と小気味よく後退するスライド。空薬莢が勢いよく吐き出され、黄金色の螺旋を描いて宙を舞う。
と、チナツが地を蹴った。
はためく漆黒の袖と冷たく輝く青醒めた刀身。
舞台へ向けてターシャも走り出し、振りかぶったチナツの切っ先が、まさに聖少女へ、その清楚な白いうなじへ吸い込まれる――その刹那の事だった。
キンッ!!!
チナツの刃は、目に見えない壁に跳ね返され、反動で彼女は舞台から転がり落ちた。
刃を跳ね返したのは量子バリア。
やはり、地下政府は、日本軍は量子転送兵器を持っていた。
使用されている量子転送兵器は――
レベル3 アルマース
ダイヤモンドを意味する防御用量子転送兵器。
その時、態勢を立て直した日本兵の小銃が一斉に火を噴いた。
「――くぅっ!」
足元の路面が爆ぜ、弾け飛ぶ無数の破片と共に逃げ遅れた人々が短い悲鳴と共に崩れ落ちる。
ターシャは、空になったマガジンを引き抜いて、新たなマガジンを叩き込むと、全速力で手近な物陰を目指して走り出した。
「チナツさんっ!」
ターシャの視線の先、舞台から右前方へおよそ五メートル。
一斉射撃の巻き添えになって横倒しになった警備用ドローンの陰に転がり込んだチナツは、時折そこから身を乗り出しては、例のリボルバー、コルトパイソンで反撃していた。
が、チナツの銃は彼女いわく所のお守り代わり。
あくまで彼女のメインの武器は日本刀なのだ。
そう、だから――
(予備の弾なんて持ってない筈――)
コルトパイソンの装弾数は六発。
早く援護しなければ彼女は敵の餌食になる。
だが、周囲を見回しても、特に盾にできそうなものは――
ターシャは、量子無線の回線を開いた。
「ソーニャさんっ!」




