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(さて……)
ソコロフは、ドカッと背後のボロボロのソファに腰を下ろすと計画をいま一度脳裏に反芻する。
計画自体は、至ってシンプルだ。
とにかくメンバーの誰でもいいので確実に『聖少女』を暗殺する。
そのために、全員をその得意とする得物に合わせて配置した。
まずは、近接戦闘で大きな威力を発揮するチナツと彼女の援護を行い、いざという時に彼女に代わって暗殺を遂行するためのターシャを広場に配置。彼女たちの支援と援護、また、いざという時にやはり彼女たちの代わりに暗殺を遂行すべく広場に面した家屋の中にアリムラ少尉を。
そして、広場に配置されたこの三人を支援すると同時に狙撃による暗殺を行うべく広場からおよそ七百メートル離れた場所に配置されたホー中尉。
各自の武器の有効範囲。
互いに援護できる範囲の限界。
警備の配置状況。
日本軍の量子転送兵器の保持の有無。
いざという時の『聖少女』側の避難経路。
そして、人民内務委員会による介入――。
考えられる点は、およそ全て考え尽くしたと言っていい。
最後にソコロフ自身は――。
広場からおよそ百メートル離れた電材市場の屋上の片隅――のプレハブ小屋。軒下に転がった不運な三人の日本兵の点呼や敵同士の通信連絡は、ソーニャが代わりに務めてくれている。
チナツが言っていた量子転送兵器による暗殺は、最後の最後。他のすべての方法が失敗した際の本当に最後の手段としてソコロフがここで準備していた。
プレハブ小屋の窓の外、真っ暗な景色の中にスポットライトに照らされた舞台のように浮かび上がる件の広場。
空中投影した戦術支援システム『ラトニク』のデジタル時刻表示が、また一分だけ時を刻む。
とにかく――
(あと二十分……)
ソコロフの脳裏に昨夜見た『聖少女』の顔が、否、彼女の夢がおぼろげに浮かんでくる。
そう――
過去に何度となく見て来た夢――
――――
月が寂し気に微笑んでいた。
真っ暗な森の中をカンテラの淡い明かりを頼りに少女は先を急ぐ。
木々の枝の間を通り抜けて足元を微かに照らす青い月の光。
時折、その足元の青い光が、ゆらゆらと揺れて、
木々を通り抜ける風の音が不気味な音を立てる。
カンテラの明かりに照らされた少女の青ざめた顔。
思い詰めたように前だけを見つめる鳶色の瞳。
足元の落ち葉を、
小さな枝を、
踏み締めながらひたすらに先を急ぐ。
少女の顔にかつての笑みは無かった。
しかし、涙も無い。
強い意志を秘めたその眼差しに、
強く引き結んだその桜色の唇に、
足取りに迷いは無い。
そして――
木立を抜けた少女の顔を月の光が煌々と照らし出す。
人気の無い草原。
無限に思える目の前の闇を見据えて少女は一人立つ。
少女を見つめて息を潜めるかのように沈黙する夜空の星々。
月だけが寂し気に微笑んでいた。
………………。
と――
瞼を開くと作戦開始五分前だった。
まずは、ホー中尉。
(よしっ……)
ソコロフは、量子無線通信の回線を開いた。




