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 再び、空中投影されていた街並みがオールド・タウンのものに戻る。

 つまり――


「ここは、この手のセレモニーをするには実に好都合だ、という以上に、まさに打って付けと言う訳だ」


 そして、それは取りも直さず、


「俺たち、暗殺を行う者にとっては非常に困難が伴う」



 ………………。



 と、チナツがそっと手を挙げた。


「ねえ、少佐さん……」


「なんだい?」


「そんな難しいこと考えなくても、量子転送兵器でドカンと一発やっちまえばいいんじゃないの?」


 こう、サクッ、とさ?

 チナツの言葉にターシャとソーニャも小さく頷く。

 が、ソコロフは首を振った。


「そうしたいのはやまやまだが……それじゃ、五十点と言ったところだ」


 いいかい?


「そもそも俺たちが、彼女を暗殺したいのは、第一七七民生委員会のメンツが潰された事の報復であり、量子転送兵器を奪われた政府の、ひいては党の政治的な意思表示なんだ」


 で、ある以上――


「ただ、殺せばいいということにはならない。必要なのは、相手に政治的なダメージを与えることだ」


 そして、そのためには――


「ぜひとも必要なんだよ」




 ――彼女が俺たちの凶弾や凶刃に崩れ落ちる『映像()』がね。




「………………」


「ひどく酷薄な事を言っていると思うが、これが現実だ。その点を考慮せずに暗殺を実行してしまうと、仮に暗殺に成功したとしても、その政治的な効果は期待されているほどの物にはならないだろう」


「それに、あのお嬢ちゃんには、次が控えてるからねぇ」


「そういうことだ。『聖少女』の代替わりが何を基準に行われてるのか定かじゃないが、これまでの代替わりの間隔を考えると、おそらく、次の代の子が一定の年齢に達するのを待っているんだろう」


 ……と言う事は、だ。

 ソコロフは、ワイシャツの胸ポケットからタバコを引っ張り出して咥えると黄燐ライターをカチンと鳴らして火を付けた。


「もし、仮に暗殺されても、その印象を薄める事さえ出来れば、暗殺の政治的な効果が続くのを次の子が代替わりするまでの短い期間だけに限定できる。次の子が、いま現在いくつなのか知らないが、交代する年齢に達するまでのあと数年間、なんとかごまかせればいい。そして、それは――」


 吐き出した紫煙がゆらゆらと立ち上って、ソコロフは小さなため息を吐いた。


「連中にとってさほど難しいことではない」


 そして、そうなってしまえば――


「我々の負けだ」


 それに、だ――


「前回の戦闘で、敵はハッキングを行って我々の量子転送兵器を封じている。今回もおそらく同じ手を使うだろう。いや――」


 指に挟んだタバコから立ち上る紫煙越しにソコロフは一同を見つめて呻くように言った。


「前回以上に強力な手段を、例えば、電波妨害(ECM)も並行して行う筈だ。俺が連中なら、間違いなくそうする」


 ホー中尉、アリムラ少尉、ターシャ、チナツ、ソーニャ、それにおばあさん(バーブシカ)が、ソコロフの言葉にじっと黙り込む。

 ソコロフは、煙を吐きつつ目の前の五十分の一の街並みを見つめて思いを巡らす。

 気の滅入るような話を散々したが、話はこれで終わりではない。

 暗殺を行う上でのハードルはこれまでの話に加えて、


(人民内務委員会――)


「ソーニャ……」




 ――お嬢さん……お嬢さん!




「は、はいっ!」


 気が付くと警備の日本兵が、ターシャの顔を胡乱げに見つめていた。

 広場に入る入口には、男女別に検問が設けられ、身分証の確認が済むと次は持ち物の確認、身体検査をされるらしい。


(平常心……平常心……)


 ターシャが、心なしかぎこちなくにっこりと微笑むとバラクラバから除く日本兵の視線が「しょうがないなぁ……」とばかりに少し柔らかになり、


「……次!」


 押し出されるようにして、次へ。

 そして……。

 体つきから女性と思われる日本兵がターシャの体を上から順にまさぐり、ここでも「はい、次」。

 難なく広場の中へ。

 と――

 骨伝導イヤホンからソコロフの声が聞こえた。


『全員、準備はいいか?』


『へへ。ばっちりでさぁね』


『もう待ちくたびれたよ。あたいだけ、早すぎだろ』


『準備完了です、同志少佐。いつでも行けます』


『私もいつでも大丈夫です。ソコロフさんとみなさんのご要望に百二十パーセントお応えさせて頂きます!』


オペレーター(ジェーブシカ)、そっちは、どうだい?』


『はい、転送準備完了です。いつでも、どうぞ』


『ターシャ、無事に入れたかい?』


『はい。いま、会場に入りました。所定の位置までもう少し……いま、着きました。配置完了です』


 ターシャは、そっと目だけで周囲を見回して小さな吐息を漏らす。

 ざわざわと物珍しそうに周囲を見回す群衆たちと周囲の家屋や工場の屋根から小銃(ライフル)を手に見下ろす兵士たち。四つ足の警備用ドローンが、のそりのそりと人々の間を縫うように会場を巡回している。

 張りつめた静かな緊張感。

 ターシャの喉が「コクン……」と鳴った。

 セレモニーの開始まではあと三十分。

 あと三十分で――


 ――この場所は、地獄になる。



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