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「おばちゃん、払っとくよ」
タケオが、カウンターの隅の地下世界でも、骨董品を通り越して、もはや歴史的遺産なのではないかと思えるほど古ぼけた卓上電子端末に携帯端末をかざして支払いをする背後を通り抜けて、ソコロフは店の隅のドアを開ける。
と、
小さな洗面台のある狭い空間に『手洗い』と『事務所』と書かれたドアが二つ。
一同はソコロフを先頭に『事務所』の方の扉を開けて中へ。
積み上げられた食用油の入っていると思しき一斗缶や小麦粉の大袋、天井から吊るされた肉などのある細長い部屋を奥へ進み、行き止まりのアルミサッシの引き戸を開けるとソコロフは、そっと、外へ顔を出して左右を窺い、
「こっちだ」
背後の一同へ頷いた。
煌々と光の灯る町の裏側。
街並みと街並みの間に挟まれた狭く暗い路地。
路地の隣、二メートルほど低い所を電力会社のトロッコの長い列が、レールを軋ませながら通り過ぎていく。
路地をしばらく道なりに進んで、トロッコの線路を跨ぐ小さな鉄橋を渡り切った先にあったのは所々ペンキが剥げた一枚のドア。ソコロフは、すぐ横のブザーを「ジー」と鳴らしてから、返事も待たずにドアを開いて中へ。
暗い急な階段を上がり切ったところがゴールだった。
階段を上り切った先にあったのは店の中と思しき空間。
正面のカウンターに座って何か作業をしていた老婆が、顔を上げると「ニヤリ……」と笑った。
「上でドンパチやってたのは、やっぱり、坊やたちかい」
「ああ。宮仕えのつらい所でね」
――また、厄介になるよ。
「おばあさん」
ソコロフにそう呼ばれた件の小柄な老婆は、一同を見つめてやれやれと肩をすくめてみせる。
幅四メートル、奥行き三メートルあるかないかの小さな店構え。
カウンターの内側に座る老婆の背後の棚にあるのは、
「拳銃……ショットガン……ライフル……の弾?」
「ありゃ。男ばかりかと思ったら、今回は随分と可愛らしい子を二人も連れてるじゃないか? この子らも、民生委員なのかい?」
「チナツは違うが、ターシャはそうだね」
「やれやれ……世も末だね」
そんな事を話しつつ老婆は、しわだらけの手で小気味よく分解された拳銃を組み立てていく。
(あのぅ……ミーシャさん)
……この方は?
おずおずと尋ねるターシャに老婆が、にっこりと微笑んだ。
「あたしは、アンナ・テレシコヴァ。ここいらじゃ、ちょいと名の知られたガン・スミス――」
兼――
「各種兵器の卸業者さ。小銃から成形炸薬弾、果てはミサイルまで、あたしに注文してくれれば、なんでも二十四時間以内に用意するよ。『良品を適正価格でタイムリーに』ってのが、あたしんとこのモットーでね」
「相変わらず、物騒なばあさまだよ……」
ホー叔父さんことホー中尉が苦笑すると一同もクスリと笑う。
ソコロフが、「因みに――」と付け足した。
「ターシャは、あのペトロフ軍曹の娘だよ。おばあさん」
「……そうかい。…………お前さん、あのペトロフ軍曹の……」
おばあさんは、ターシャの青い瞳をしばし見つめて、感慨深げに深いため息を吐いた。
「……よしっ。ターシャちゃん、あたしを本当のおばあさんだと思って、遠慮なく何でも言っておくれ。もちろん、隣のお前さんもだよ、お嬢ちゃん」
「ありがとうございます。その……」
おばあさんは……
「昔、パパ――いえ、私の父と?」
「ああ。古い馴染みでね。軍曹は、そこにいるホーの爺さんや坊や達、第六八三民生委員会の連中と一緒にうちによく出入りしていたんだよ。軍曹やみんなの拳銃は、全部あたしがカスタマイズしたものさ」
「そうだったんですね……」
ターシャが、目に薄っすらと涙を滲ませながら店内を見渡し、チナツがそんなターシャの手をそっと握ってやっていた。
おばあさんは、そんな二人を見つめて目を細めると、組み立て終わった拳銃を脇へどけ、カウンターの上でおもむろに手を組んだ。
そして――
ニヤリと凄みのある笑みを浮かべてソコロフに言った。
「で――今回は、何を準備すればいいんだい?」




