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「なるほど……」
軍曹の報告にバザロフは、満足げに頷いた。
戦死者は、人民内務委員会隷下の戦闘部隊で三名、負傷者は一名のみ。
協力関係にあるマフィアは、負傷者が五名だけ。
地上から急遽呼び寄せたなけなしの一個小隊。
敵の戦力がこちらのほぼ倍の規模であった事を考えれば、完勝と言っていいだろう。実際、報告する軍曹も嬉しさを隠し切れないのか、いつもは沈みがちなその声が微かに上ずっている。
が、
(さて、これからどうするか……)
ソコロフの動向は、マフィアを含めた地下世界の協力者たちからの情報で、おおよその見当が付いている。
おそらく連中は、この機会を逃さないだろう。
しかし……
(しかし、どうしてこのタイミングで――)
バザロフは、背中で軍曹の報告を聞き流しつつ、薄暗い部屋の隅に空中投影されたブラウザに映るニュース動画を見つめて思いに耽る。
突如、飛び込んで来た『聖少女』の第六十二階層訪問。
第六十三階層と第六十二階層が、地下政府の傘下に入るに当たってのセレモニーのためというのが理由であり、それ自体になんら不審な点はない。
が、
バザロフは、内心首を捻る。
あまりにも……。
そう、あまりにも、
(タイミングが良すぎる)
まるで図ったかのようなタイミング。
しかも、敵は、
(俺たちだけじゃない、第一七七民生員会とも戦闘を交えたばかりだ……)
しかも、連中はバザロフだけでなく、その第一七七民生員会にも敗れ、ソコロフ達の地下への潜航を許してしまっているのだ。
そんな状況下でのセレモニーの強行。
よほど、警備体制に自信があるのか……。
あるいは――
(罠か……)
目の前のニュース動画では、劣等民族の女性キャスターが大写しになった『聖少女』の画像の前で、地下政府のスポークスマンの声明を伝えていた。
人民内務委員会の協力者たちもこれが「罠」なのか、あるいは純粋に他の階層を傘下に入れる際に行っているいつものセレモニーであるのか、その判断について確信を持って答えられる者はいない。
ただ――
それでも、一つだけ確信を持って言えるのは、
(このセレモニー自体は、間違いなく行われる)
そう、そしてセレモニーが行われる以上――
(本人であれ、影武者であれ『聖少女』は必ず出て来る)
それを暗殺することができれば――
(地下政府にとってこれ以上ないほどの大きな政治的ダメージになる)
が……
バザロフは、腕を組んで天を仰ぐ。
そんなことは、地下政府は百も承知である筈なのだ。
だが、そうであるにも関わらず、このセレモニーは強行されようとしている。
(ふむ……)
答えの出ない堂々巡りの思考にバザロフは、喉の奥で小さく呻いた。
判断にあまり時間をかけられない。
ここまでは、ほぼ計画通りに事態は進展している。
ならば――
(何を迷う必要がある?)
が、保険は掛けておいて然るべきだろう。
バザロフは、報告を終えて返事を待っていた軍曹に振り返った。
「そろそろ――」
――『切り札』を使おう。




