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言うが早いか、大きな破裂音と共に近くの天井が吹き飛び、
(……ロケット弾か!)
同時に駅舎の窓という窓から一斉に敵が撃ち始めた。
たまぎる銃声と明滅するマズルフラッシュ。
車両の外壁に容赦なく大量の弾丸が突き刺さり、
「喰らえっ!!!」
タケオがグリップを握るDShK38重機関銃が猛烈な勢いで火を噴き始めるや、皆も三々五々に駅舎に向けてそれぞれの位置から弾をぶち込む。
ソコロフが、オペレーターへ叫んだ。
『転送しろっ!!』
『了解っ!!』
オペレーターの短い叫びと共に『ラトニク』からソコロフの面前にホログラム照準器が空間投影され、赤く輝く十字の照準が敵の中心線に合わさる。
と――
『エラー:照準を中止してください』
「な、なんだと?」
『ソコロフさんっ!!』
突然現れたブラウザの中からソーニャが叫んだ。
『ハッキングです!! 日本軍の戦術AIがわたしや「ラトニク」をハッキングしようとしています!!』
『同志中尉! 申し訳ありません、復旧に少し時間を下さいっ!』
(なんてこった……)
ホログラム照準器が、すぅ、と消えていくと同時に『ラトニク』が停止した。
と、いうことは――
「量子転送兵器なしで戦うしかないねぇ……」
ホー叔父さんのがっかりしたような声と同時にひと際大きな着弾音で敵のロケット弾が再び至近距離に着弾し、天井のコンクリートが砕け飛ぶ。
「――少佐っ!」
タケオが、DShK38重機関銃に新たなベルトを装弾しながらその肩越しに叫んだ。
「三時方向、敵のドローンっ!」
「同志中尉!! こちらにも、十時方向に二機います!」
「同志少佐!! 敵までもう五百メートルもありませんや!」
同志中尉!!
同志少佐!!
………………。
(やれやれ……)
ソコロフは、胸ポケットからタバコを引っ張り出すと口に咥えて黄燐ライターでカチンと火を付ける。
飛び交う銃弾。
ドローンが付かず離れずで、その機体下部に設置された小口径機銃でハチのように刺して来ては、モノレールの車体表面で銃弾が弾け飛び、もう目の前と言っていい距離に迫った駅舎からは、さらに猛烈な勢いで敵が撃って来る。
(…………)
紫煙が揺れて訪れた刹那の沈黙。
タバコのその儚い恍惚感が肺を満たすと同時に、味方の声が、敵の殺意が遠い世界の物語であるかのように遠ざかっていく。
そして――コンマ一秒以下の次の瞬間。
(よしっ……っ!)
ソコロフが、その頬に不敵な笑みを浮かべて叫んだ。
「ターシャとチナツは左側面、アリムラ少尉は右側面のドローンを落とせ、ホー中尉は、駅舎の敵を狙撃して牽制を! ソーニャっ!」
『はいっ、ソコロフさん!』
「大丈夫かい? 持ちこたえられそうかい?」
『…………』
「ソーニャ……?」
ソコロフさん――
ブラウザの中のソーニャが頬を赤く染めて俯きながら、何かを背中で支えていた。否、よく見れば、彼女はその背中で今にも打ち破られそうなになっている扉を懸命に押さえていたのだ。
『1000110111001100011110101010』
『1110011010101011111000011110』
ドンッ! ドン、ドンッ!!
扉の外の不穏な電子音と共に打ち鳴らされる大きな音。
扉の正面を、防壁の正面を敵の戦術AIが突破しようとしている音だった。
「ソーニャっ!!」
『ソコロフさん……』
ゆっくりと顔を上げたソーニャのエメラルドグリーンの瞳がキラキラと熱を帯びて光っていた。
わたしは――
『第八世代量子頭脳「スリーピング・ビューティー」』
ソコロフさんのご期待に百二十パーセントお応えする――
『あなたのソーニャですっ!!!』
と――ブラウザの中のソーニャの体が、ふっ、と緑色の光に覆われて輝き出し、同時にブラウザの中を同色に輝く数列や文字列が勢いよく流れ落ち始める。
『ソコロフさん、六十秒です』
六十秒で――
『決着を付けてご覧に入れます』
「分かった。頼む、ソーニャ!」




