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DShK38重機関銃
通称「デューシカ」。
またの名を「デグチャレフ」。
国家人民軍のひと世代前の正式装備品だが、造りが堅牢で扱いやすいのとやたらと大量に生産された関係で地下世界でも弾薬や交換部品が手に入れやすいという理由で、第一七七民生委員会では広く使用されている重機関銃である。
重機関銃のグリップを握ったタケオが、一度、左右に銃身を振って動きを確かめる傍ら、ホー叔父さんが自身の狙撃銃であるドラグノフに弾倉をガチャリと装着する。
「ターシャ、チナツ――」
ソコロフが、二人へコンパートメント内の窓を固めるように指示を出し、
そして――
『ソーニャ、明かりを消してくれるかい?』
『かしこまりましたっ』
車内の明かりが全て消え、その数分後、車両の前方で「ガチャン」と音がした。
『いま、編成から切り離しました。この後、引き込み線を利用して追い抜きますね』
量子無線の向こうでソーニャの囁くような可愛らしい声が響くと同時に、ソコロフ達を乗せた車両が引き込み線に入って行くのが分かり、ほどなく、元の編成を追い抜いてモノレールは第五十四階層へと向かうトンネルに入った。
窓の外を白い照明が疾走して行くだけの無味乾燥な景色が続くこと二十分。
ソコロフが、量子無線のチャンネルを繋いだ。
『オペレーター……』
と――
「「わぁーっ!!!」」
コンパートメントの中からターシャとチナツの歓声が聞こえ、トンネルを抜けた車窓に第五十四階層の青く輝く夜景が広がった。
車両の下から左右一面、無限に思えるほどの広大さで広がる鏡のような水面。
等間隔に伸びる照明塔のオレンジ色の明かりが水面にキラキラと輝いて、時折、魚でも跳ねるのか微かな波紋が浮かぶ。
シャフト 第五十四階層 第三給水層「レイク・ウィンダミア」
この広大な貯水層の真ん中にある管理棟がある島。
その島にあるのが、「ポート・ウィンダミア駅」である。
きらきらと照明の光が輝く水面の向こうに黒々とした駅舎の影が徐々に迫って来るのが見える。が、ソコロフ達を待ち受けるためなのだろうか、通常は明かりが灯っている筈の島の管理棟も駅舎も真っ暗だった。
ソコロフが、お嬢さんこと、オペレーター四〇七七八五六一に再び呼び掛ける。
『オペレーター』
『……ほにょぉん? ……そんなに、わたしの事好きなのぉ~、えぇ~、どうしようかなぁ~』
『オペレーター?』
『……ぐぅ……すぅぅぅ……』
『オペレーターァァァッ!』
『へっ? あっ! きゃぁぁっ!』
何とも場違いな嬌声と共にイスやらなにやらが、書類やファイルなどと一緒にどしゃめしゃと派手に床に崩れる音がして、
『イタタ……タ……。おはようございます、同志中尉』
オペレーターの恥ずかしそうな声が聞こえた。
『疲れているところをすまないんだが、仕事だ、オペレーター。量子転送の準備をしておいてくれ』
『え……いま、どちらですか、同志中尉? ええと……』
『第五十四階層、レイク・ウィンダミアにいる』
『ええと……随分遠くにいらっしゃるんですね……あっ、すいません、転送準備ですよね。あのぅ……もし、よろしければ、一緒にいらっしゃるホー中尉とアリムラ少尉の分もこちらで管制できますが、どうされますか?』
『……そんなことが出来るのか?』
『ふふふ……お任せ下さいっ! この私に掛かれば、そんなものチョチョイのチョイですよっ!』
『それは、頼もしいな。じゃあ、彼らの分もよろしく頼む。期待してるよ、オペレーター』
『ハイッ! お任せ下さいっ!』
やるぞーっ!!
すっかり目が醒めたらしいオペレーターが、聞いているこちらが逆にくたびれてしまいそうなほどやる気満々なのに苦笑しつつ、揺れる廊下をそろそろと歩いて、ソコロフは車両の前部へ。
連結部の重い引き戸を何とか開くと冷たい風が顔に吹き付けて来た。
早速、『ラトニク』を起動させて、戦闘モードへ。
駅舎のある島までの距離は、一キロを切った。
と――駅舎の黒々とした影の中で何かが、チカッ、と瞬く。
「来るぞっ!!」




