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「おらぁっ!」
最後の一撃で敵が床に沈んだのを確認して、アリムラ少尉ことタケオが、自身の頬にこびり付いた血をよれよれになったワイシャツの袖で拭う。
ターシャとチナツが恐る恐る入り口から首を出してこちらの様子を窺っているコンパートメント『A12』。彼女たちの話によると女性陣の部屋にも敵は、きっちり襲撃を掛けて来たらしい。
床に転がった敵の数は、女性陣のコンパートメント内の三人と併せて全部で十二名。窓の外に落ちて行った者や逃げて行った者を含めると襲撃者の総勢は二十人ほどだろうか。
漆黒の戦闘服に同色のタクティカルベストとヘルメット。
部隊章は、付けていないが――。
『地下政府軍の人たちですね……』
通信が回復したソーニャが、空中投影されたブラウザから厳しい声で呟いた。
そう。
タケオが、床に転がった死体を覗き込んでソコロフに頷いてみせる。
バラクラバをめくった下のその顔は、間違いなく劣等民族、否、日本人。
敵は――
(日本陸軍第四〇四特殊戦術大隊……)
「しっかし、この手の連中ってぇのは、どうしてこう、いっつも、いっつも、手加減一切無しなんだかねぇ……」
頬を赤く腫らしたホー叔父さんが、拳銃のマガジンを交換しながらぼやくのに一同が苦笑交じりに頷く。
車内はコンパートメントも廊下も弾痕だらけ、足元の絨毯は激しい格闘のせいで所々剥げてしまって目も当てられない。
が、それよりなにより、
『ソーニャ、敵の状況は?』
『はい、この人たちが失敗したので、次だーっ、って言って準備しているみたいです。たぶん……』
「次の駅か!」
タケオが立体地図を空中投影し、それを、ソコロフが指先で拡大して、現在地へ。投影された立体地図上にポツンと点滅するソコロフ達を示す赤いフリップが高速で地下を目指して進んでいるのが見えた。
次の停車駅は――タケオが、喉の奥で呟く。
「第五十四階層の『ポート・ウィンダミア駅』ですね。たぶん、そこか、それまでの途中で……」
「残りの全力で襲撃か……」
とは言え、事前に人を仕込んでおいた襲撃が失敗した以上、襲撃側は次の襲撃ではかなり無理をしなければいけないだろう。
(それに、第五十四層は……)
そう、あの階層は――。
ソコロフが、腕時計を見る。
現在の時刻は、午前二時五十五分。
ポート・ウィンダミア駅までは、あと三十分ほど。
この三十分間の間に敵は――。
さて――。
(とんだ夜更かしがあったもんだ)
ソコロフが左右のレッグホルスターから拳銃を順に取り出してマガジンを新しい物に交換しながら、左右のホー叔父さんとタケオに頷く。
二人は「我が意を得たり」とばかりに顔を見合わせニヤリと微笑んだ。
「ええと……どうされるんですか?」
「決まっているだろう、兵長」
マガジンを交換し終えたソコロフが、目の前のコンパートメント『A11』の中から取り出した自動小銃とその予備のマガジンが入った弾薬嚢を一つずつ、ターシャとチナツの手にポンと置いて、キョトンとする二人へ力強く頷いた。
「強行突破だっ!!」
言うが早いかソコロフは、量子無線の回線を開く。
『ソーニャ』
『はいっ、ソコロフさん』
『これから、だいぶ無理をするけど頼めるかな?』
『はいっ、喜んで! それで、私は何を?』
『モノレールの制御をハッキングして、俺たちの車両を編成から切り離してほしい』
『お任せ下さいっ! で……その後は?』
『全速力で敵に突っ込む』
ソコロフの言葉にこの第八世代量子頭脳の少女は、クスリと笑って頷いた。
『お任せ下さいっ。私はソコロフさんのリクエストに百ニ十パーセントお応えする第八世代量子頭脳「スリーピング・ビューティ」、あなたのソーニャですからっ』
可愛らしい笑みを残して仕事に取り掛かったソーニャに礼を言って通信を切ると、さっそく、タケオが重そうに床に置いたケースを「バチンッ! バチンッ!」と開く。
現れたのは、鈍く光る長い銃身とその根元の機関部。
ソコロフが、それを重そうに取り出すと、
「よいしょぉ」
と、ホー叔父さんが受け取って廊下の窓際に設置した三脚の上にガチャリと装着。すかさず、タケオが機関部の蓋を開いて、金色に輝く薬莢が眩しい五十連発のベルトをじゃらじゃらと装弾し、最後に両手持ちのグリップの丁度中央、押鉄の真下にある槓桿を「ガッ……チャンッ!!」と力いっぱい引っぱって初弾が装填された。
「ほへぇ……このケースの中ってそんな物騒なものが入ってたのかい」




