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背後の壁の向こうと正面からほぼ同時にガラスの砕ける音が響き、ターシャとチナツの目の前の窓から漆黒の装備の兵士が飛び込んで来た。
「――っ!」
ターシャが迷わず発砲し、ドア越しに廊下からも続けざまに何発もの激しい発砲音が響く。最初に飛び込んで来た敵がターシャのマカロフ自動拳銃の弾を全弾その身に喰らって膝から崩れ落ちると、
「あぶないっ!!」
チナツが背後からターシャを抱いて、ソファの影に飛び込んだ瞬間、窓から、にゅっ、と車内へと突き出された自動小銃の銃口が一斉に火を噴いた。
「くぅっ!!」
「こらぁっ!! あたいら二人殺すのに何発使うつもりなんだっ!!」
猛烈な発砲炎と銃声と共に室内のあらゆるものが砕け跳び、破片が容赦なくターシャたちの頭上に降り注ぐ。
ターシャは、絨毯の床にこれ以上ないほどの低い姿勢で這いつくばると、銃からまだ何発か残っていたマガジンを引き抜いてワンピースのポケットに押し込み、新たなマガジンを引っ張り出して叩き込む。
そして、猛烈な銃撃に晒されながら敵の呼吸を図ること暫し。
廊下からは、激しい銃声と共に壁に体を「どんっ!! どんっ!!」と打ち付ける格闘の音が聞こえて来る。戦っているのは、ホー叔父さんかタケオか、それとも、ミーシャことソコロフか。
どちらにしても敵の方が間違いなく数が多い。
当初、危惧していた通り、敵はここで一行を完全に葬るつもりに違いない。
(…………)
銃を握るターシャの手にじっとりと冷たい汗が滲んでくる。
脳裏に地上に残して来た家族の顔が過る。
と、窓の外からの銃声が明らかに減った。
(マガジン交換!)
ターシャが、立ち上がろうとしたその時、その体を飛び越えるようにしてチナツが飛び出した。
ギラリと抜き放たれた白刃。
美しい波紋が波打つ冷たい刀身を煌めかせてチナツが宙を舞う。
「しゃらくせぇっ!」
意外な反撃に呆気に取られる敵に一寸の猶予を与えず、煌めく閃光。
室内に潜入した敵二人が、頭上から振り下ろされた一太刀で低いうめき声と共に鮮血を噴出させながら音を立てて床に転がり、マガジンを交換した窓の外の敵に、チナツはさらに加速した一足飛びでその切っ先を叩き込む。
そして――
絶叫と共に眼下へと落下して行く敵と入れ違いに慌ててチナツへ銃口を向けた最後の一人、そのヘルメットの下の眉間に向けて、
ドンッ!!
「チナツさん……銃持ってたんですね」
窓の外を見下ろしながらチナツが、芝居がかった調子で微かに硝煙のたなびく銃口を、ふっ、と吹いてみせる。
四インチの黒い銃身が鈍い光を放つリボルバー、コルトパイソン。
「まあ、これぐらいの超至近距離じゃないとあたいの握力じゃ、こいつの弾を当てられないんだよ。反動が強すぎてね」
チナツは華奢な肩越しに振り返って、きゅっ、と片方の目を瞑ってみせた。
ボロボロに破壊されたコンパートメントと床に転がった真っ黒な装備の殺人者たち。
シュールな光景だった。
そして、ふと、我に返れば、そんな冗談みたいな景色の中に女の子がただ二人。
「…………」
「…………」
目が合った瞬間、どちらからともなくクスクスと笑い出したチナツとターシャ。ひとしきり、二人が笑いあった後、暫くしてドアが開いた。
「大丈夫か二人とも!」




