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「どう、とは?」


「いえ、今回の作戦のことでさぁ」


 そのぅ……


「いぇね、ケチを付けるつもりは、無えんですがねぇ……どうにも非道(ひで)ぇんじゃぁねぇですかねぇ、あたしらのお偉いさん連中は。少佐殿も感じておられるでしょう?」


「うむ……」


「もちろん、あたしも民生委員ですからねぇ。命令は命令、絶対でさぁ。そいつぁ、間違いねぇ事です。ですがね……」


「……ターシャか」


 ホー中尉は、大きなため息を吐いた。


「……あの子は、ペト公の忘れ形見じゃありやせんか。もし、あの子に何かあったら、あたしゃ、あの世でペト公に会わせる顔がありませんやね。それをですぜ、少佐、お偉いさん連中は、よりによって……よりによって、あなたに付いて行って地下世界(アンダーグラウンド)で『聖少女』を殺して来いたぁ……。しかも、この状況でしょう? あたしゃぁ、どうにも……。ねぇ……」


「うむ…………。しかし、中尉、俺たちに出来ることは限られているよ。どんな理由があろうと、彼女だけを特別扱いすることは出来ない。彼女だって、俺たちと同じ民生委員なんだ」


 それに――


「だったら、なおの事、この作戦を上手く行かせるしかない。なぁに、俺たちが『聖少女』の暗殺にいつか乗り出すに違いない、と言うのが、地下世界(アンダーグラウンド)の連中の間では常識だったんだ。ある意味、今さらさ」


「まぁ、そうなんですがねぇ……」


 ホー中尉は、物憂げに目を伏せて煙を吐く。

 彼の言いたいことはよく分かる。いや、タケオことアリムラ少尉もおそらく同じだろう。

 確かに――


(状況がよくないのは、隠しようのない事実だ)


 現状、第一七七民生委員会が、聖少女の暗殺を行おうとして行動を起こしている事を地下世界(アンダーグラウンド)で知らない者がいない状況になりつつある。そして、当然ながら、聖少女を守るべき立場の地下政府もその事を熟知しているに違いない。

 だと言うのに――


(この状況の中で俺たちは暗殺を行わなければならない)


 この先の行動は、針に糸を通す慎重さと、


(予測不能の大胆さ)


 相反する二つの要素が求められるだろう。

 そして――


(最後は、運か……)


 まったく、民生委員ってヤツは……。

 消えかけたタバコをなおもしつこく吹かしつつ、ソコロフは、そっとため息を吐き天井を見上げ――


「…………っ!」


 両のレッグホルスターから勢いよく銃を抜くと、同じくホー中尉も上着の下のホルスターから抜いた銃を構える。


「――タケオッ!」




 ***************




『ターシャさんっ! チナツさんっ!』


 突然、携帯端末からソーニャの声が響くと同時に、


「ターシャさん、起きてる?」


「……っ!」


 薄暗いコンパートメント内にぼんやりと灯る常夜灯の小さな明かりの下でチナツが浮かべるその緊迫した表情にターシャも枕の下の拳銃を手に簡易ベッドの上から滑り降りると素早く衣服を身に着け、寝室からソファのあるリビングスペースへ。

 窓の外を流れて行く巨大なスレート張りの壁と眩いばかりの照明の明かり。

 コンパートメントの壁に設けられたデジタル表示が五十三階層を通過中である事を示していた。


『ソーニャさん、状況を教えて下さい。相手は?』


『おそらく地下政府軍の襲撃で――もう、モノ――ルの車内と上――』


 突然、音声が乱れ、量子無線は、ブツンッ、と切れた。


電波妨害(ジャミング)!!)


 銃を構えたターシャの背後で、チナツが「チャキッ……」と帯に差した刀の鯉口を切る。

 頭上、そして壁の向こうからひしひしと感じる明確な殺意。

 モノレールの走行音が静まり返った薄暗い車内を揺さぶっている。

 背後のチナツの喉がコクンと鳴り――。

 その時だった。



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